タイトル
感動を語るのではなく、カメラを通して見せる

感動を語るのではなく、カメラを通して見せる
マイク・ガントン|[クリエイティブディレクター| BBC Natural History UNIT]

『LIFE』や『GALAPAGOS』をはじめとして、見たことがない自然を、見たことがない視点でとらえ、見るものを容赦なく感動の世界に引きずりこむドキュメンタリーを制作し続ける、世界最大のネイチャー・ドキュメンタリー制作組織BBC ナチュラル・ヒストリー・ユニット。
そのクリエイティブディレクターであり多くの作品をエグゼクティブ・プロデューサーとして制作指揮するマイク・ガントン氏に、一時間半のスカイプインタビューを行い、彼がカメラを通して伝えてきた言葉にならない感動について語ってもらった。

発見を与えること
ネイチャー・ドキュメンタリーには、3つの意義があると思っているんだ。1つ目は、ワクワクさせること。2つ目は、とにかく美しいと感じさせること。そして3つ目は、発見を与えること。そんなこと知ってるよ、わかってるよと思っていたものが、もっと大きな視点で見ると、思っていたよりも些細なことだったり、もっと大事な、もっと大きなものがあったんだ!という発見があるのは、やっていて面白いと思うポイントだね。

神様が空から見たときの視点
企画を決めるにあたって、2つの重要な要素があると思っている。まずは場所。そして動物がデーマの場合が多いんだけど、その場合は動物の行動。
場所というのは、イエローストーンにしようとか、ガラパコスにしようとか、具体的な場所の選定だね。場所を選ぶときには、聞いた事があったり、噂になっていたり、自分自身が気になっているっていうことは大事なんだけど、表面的なところを外したら本当はどういうところなのか、という視点で捉える様にしている。余計な知識のフィルターを通すんじゃなくて、神様が上から見たときに、どう見えるのか。そういう視点で考えたりするんだ。

言葉を少なくすればするほど成功するはず
動物がテーマのときも多いんだけど、その場合、動物の行動が大事だから、それを基準に決めるね。それも「ライオンはこういうふうに行動する」ではなく、「このライオンはこういうことをする」というふうに、パーソナリティをもたせるんだ。「人間はこういうことをする」ではなく「あなたはこういうことをする」というように。人はそこに感情移入してしまうし、共有する部分があるわけ。その上で、あまり大袈裟にならないように注意する。何が一番大事かっていうと、語るのでなくて、見せるということだから。動物は話せないしから、それをただ言葉にするのではなく、それを目で見えるようにするのが自分たちの仕事なんだ。実際は、言葉を少なくすればするほど成功するはずだよ。言わなきゃいけないというのは、うまく引き出せていないということじゃないかな。

世界を翻訳する:時空間を変化させたり、現実を拡張させたり
基本はビジュアライゼーション、見せること、で伝えようとしているよ。いま、新しい見せ方を常に考えていて。「Hidden Kingdom」というものすごく小さな動物をテーマにした作品を制作中なんだけど、彼らの人生を見ていると、実にドラマチックなんだ。常に危険が伴っているし。彼らを観察するために、撮影隊を極限まで小さいサイズにしてみて、小さい動物をまるでゾウのように撮ったらどう思うか、というのを今トライしている。そうすると、すごい世界が広がってくるんだ。豆が車くらいのサイズになるし、そよ風が嵐みたいになってなってくる。レンズも特殊なレンズを使用して、世界観をつくることに注力している。自分たちが小さくなれないから、どういう風に表現するかっていうのをある意味、翻訳している感じ。時空間を変えたりみたり、現実を拡張してみたりしながらね。

発見が面白い。それを人に見せたい
ぼくがこの仕事をするモチベーションは、理想的にはもちろん人に見せたいから、と言いたいけど、本当は自分自身が面白いからだね(笑)。「どうやったらこんなことができるんだろう」というような発見が面白いんだよね。もちろん、それを人に見せたいと思うんだけど。どうしたら面白くなるのか、どうしたら誰もやった事がないやり方ができるんだろうかと考えたことが、見てくれた人達にちゃんと伝わって、感動してくれたら嬉しいよね。
ただ、単に伝えるということであればジャーナリズムでもできるから、クリエイティビティは追求する。けれども、ただ偉そうに見せるということをしたいわけじゃない。モチベーションとしては、何かをつくりたい、クリエイトしたい。そして人に見せたい、という思いもある。その両方だね。

本当のことをちゃんと伝えるために、語るのではなく見せる
企画によっては、事実をありのまま報告する立場をとる場合もあるけど、そういう時ですら、感情をだしたり、共感してもらえるようなメッセージ性を出す工夫しているよ。例えば、現在の自然を取り巻く現実に対してステートメントを打ち出していたりするときもある。自然の持っている素晴らしさ、すごさばかりを言おうとしがちだけど、大変な状況や危険を伝えようとすることも大事で、それは語るよりも、見せる方が強いよ。それを見て、自分たちで考えてもらう方がいいと思う。もちろん我々の方から「これは悪いんだ!」と一方的にいうと抵抗あるはずだから、テレビに映す時は視聴者を尊重してあげないといけない。テレビ見なくなっちゃうし、そうはしたくない。そのために我々がどうすればいいのかは、悩むけど。だから本当のことをちゃんと伝えるということは、大事にしているよ。

ビル・ゲイツでも行けないような場所
制作のための資金はそんなに潤沢ではないけど、プロジェクトに必要な資金をうまく調達してくるのも、私の仕事なんだよ。例えば、アフリカのプロジェクトでは、数億ポンド(数百億円)の規模のプロジェクトになってしまうね…。けれども、ライセンスビジネスや、他のテレビ局との共同制作というかたちを取ったり、DVD等の販売で売上げも見込めるから、撮影費用を先取りすることができるんだよ。協力先も僕らの作品のクオリティ、インパクトのレベルを分かってくれているので、資金が調達できる。我々だからということで、許可が下りることも多々ある。大学時代の友達がお金持ちの奴が多いしね(笑)。ただ、彼らは僕らが見た世界を見ることができないから、代わりに仕事を通して僕らが他人に見せられる様に、色んなアクセスで色んな場所に行っているよ。ビル・ゲイツでも行けないような場所にね。

南極での言葉にならない経験
撮影するのに最もハードルが高かった場所は、南極での空撮かな。特殊なカメラを使い、世界でも指折りのパイロットに操縦してもらいながら、誰も見たことがない南極の姿を撮ることができたんだ。撮影の合間に、ここで降りたい、あそこで行きたい、と言えば、そこが誰も訪れたことのない場所だったとしても行くことができたよ。自分が言葉にならなかった経験というのは、その経験がひとつだね。
1~-2時間ほど南極を空撮した時、雪山が見えて、その景色があまりにも荘厳だったので、雪山に向かって飛んで行ったのだけれども、全然近くに感じられないんだ。それほど信じられないくらいに巨大なんだよ。近づく前は、小さな割れ目だと思っていたのに、実際はものすごい巨大なクレバスだったり、上空からみたら面白い形だな、と思って、実際に降りてみると、街ぐらいの大きさのものだったり。氷河とか、漂流とかも、スケール感が全く違かった。

全部吸収したい/絶対に忘れたくない/ずーっとみていたい/みんなに伝えたい
ランドスケープがテーマのときは、動物以上に普段とは違う気持ちになるね。
動物に対しては、「あ!何が起こるんだろう!」という気持ちでみているけど、ランドスケープに対しては、ただ息をのむという感じ。
全部吸収したい。絶対に忘れたくない。ずーっと見ていたい。南極なんて、もう二度と行けないと分かっているんだから、自分の中に残しておきたい。
今も話していると、頭の中で全部景色がよみがえってくるくらいはっきりしてくる。
そして、イメージだけではなくて、感情がついているから(印象が)強くなる。ただ綺麗な画ではなくて、そこには自分の心が含まれているから強くなるというのが、今話していて気付いたよ。(笑)そして、他人に伝えたくなるんだ。こんなすごいものを見たよって、写真はこんな感じだよ、って言えるんだけど、そこに感情がついているから余計に強い。

初めて撮影に同行した頃なんだけれども、クジラの撮影に同行した時にね、小さなヨットでクジラに近づいたら、クジラの方からボートをトントンと体で軽くあたってきて、まるで手を振ってくれている様だった。50フィートもの巨大な生物が、徐々に海中に戻っていくシーンを見ている間、どれだけ自分が小さいかということを感じたんだ。素晴らしい体験だった。動物や自然を前にした時、どれだけ自分がちっぽけなものだということを思い知らされるよ。

言葉にならない体験を、カメラを通して見せる
素晴らしい景色や最高のものを自分がみて経験すること、それが景色であっても、現象であっても、動物のとんでもない力であっても、すごく脳のプリミティブな部分を刺激してくる感じがするんだ。それを言葉にしてしまうと、うまく伝えられないと思う。目で見られるものはやっぱり目を通してフィルターしてしまっている。でも、カメラはそれ以上のことを見せることができるんだ。もちろん目で見えることも見せられるし、「見ているもの以上」のことも見せることができる。例えば、カメレオンが虫を捕まえる瞬間。自分の目で見たら一瞬で舌をベタってくっつけて虫を食べていると思うけれども、タイムラプス撮影を通して見れば、実は舌を巻いて取っているということが分かるんだ。それをいちいち説明するよりも、見せられればよっぽど早いし、強い。言葉にならないものだけじゃなく、見ようとしても見えないものを見せてあげられるのが映像の魅力だよね。それって、よくよく考えると面白いね(笑)。見せているものは実際本物なんだけれども、撮っているのは普通では見えないもの。でも見えないものって本物とは言えないから、面白いなぁって(笑)。考えれば考えるほど、おかしいよね。

ダイオウイカにはやられたよ
もし、予算も制約も何にも縛られずに自由に撮影していいと言われたら、まず、唯一行ったことがない場所である「深海」は、やっぱり行きたいね。1年前ならNHKが撮ったダイオウイカを撮ろうと思ったけど(笑)。ただ、まだ誰も見たことがない生物が他にもきっと存在しているはずだから、もし予算が関係なかったら、ものすごい潜水艦でそこら中を探してみたいね。それと、もしネッシーが存在するのなら、ぜひ撮りたいね。今、恐竜をテーマにしたプロジェクトをしているんだけど、タイムマシーンがあったら、恐竜の時代に遡って撮影してみたいな。