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極選! 記者発表、テキスト中継
著者 / 話者

カンヌライオンズには一般参加者だけでなく、世界中から600人にもおよぶ広告コミュニケーション業界のジャーナリストが大集結する。AdvertisingAge誌、CREATIVITY誌など、普段からチェックしているであろう記事を書くジャーナリストたちだ。誰もが毎日まずプレスセンターに顔をだして、プレス向け資料を入手しつつ、すぐにいっぱいになってしまうテーブルの、ちょっとした隙間を探して原稿を書き、配信する。

そのプレスセンター内に記者発表会場があり、そこで16部門すべての記者発表が行われるのだが、今回は選び抜いた5部門の記者発表の主要部分を、そのまま日本語で掲載する。

全部門で合計すると312人にもおよぶ国際色豊かな審査員は皆、様々なバックグラウンドを持ち、個性あふれる強者揃い。審査員団とジャーナリストたちの丁々発止を、お楽しみあれ。

最初に、昨年設立されたばかりのMobile部門を。審査員長はアメリカで活躍するRei Inamoto氏[Chief Creative Officer/VP,AKQA](アメリカ)。
CREATIVITY誌では「世界の最も影響力ある50人」のひとりに選ばれるも、星印のシャツがトレードマークという一面も。

Mobile Press Conference

Phil Thomas[President, Cannes Lions International Festival of Creativity]
ジャーナリストの皆さん、カンヌライオンズ史上二回目となるMobile部門の記者発表を始めます。席についてください。非常に盛り上がった審査過程だったようです。審査員長のRei、よろしく。

Rei Inamoto
どこから話しはじめようという気分だけど、優秀な審査員たちにも話してほしいから、僕からは簡単に。まず、グランプリ受賞作品だけど、あまりにもシンプルで驚くかもしれない。でもテクノロジーに頼らなくてもいいアイディアは抜きんでて目立つものだ。僕はこのシンプルさが大好きだ。SIMチップを差し替えるだけで、旧式のアナログ携帯端末が学校の教科書に変身する。さあ、Xavier頼むよ。彼は、グランプリ作品の解説が上手いんだ。

Xavier Laoureux[Head of Digital Arts Network, TBWA\Digital Arts Network](ベルギー)
ありがとう、Rei。4日間を通じてみんなでモバイルの定義についてたくさん討議をしたんだ。そして、グランプリは、ビジネス上の課題を解決するモバイルならではの優れたアイディアにしようと決めたんだ。だから、技術ありきではなかった。

Inamoto
MagnusやMartinも一言頼むよ。

Magnus Jakobsson[Creative Director/Partner, DDB Stockholm](スウェーデン)
最先端領域として、世界中の注目が集まるモバイルだけど、だからといって未来からロボットがやってきた、なんていうハイパーモダンさが必要ということはない。

Martin Lange[Executive Marketing Director/Digital Strategy, Ogilvy & Mather](グローバル)
モバイルとは一体なにか、ずいぶん話しあったよ。審査員たちのバックグラウンドも少しずつ違うから、技術的な視点で捉えようとする人もいたし、消費者の行動論からみようとする人もいた。話題にあがったのはモバイルという移動性やネットワークにつながっている点、あるいはクラウドにアクセスできることなど。最終的には、家でセカンド・スクリーンとして使うのでも、移動中に手にできるテクノロジーとして捉えるのでも、バス停や学校など家以外の場所で使うのでも、データやサービス、あるいは情報へのアクセスが可能で、コンピュータとしての機能を持ち、何らかのフィードバックを受けられるもの、として捉えた。

Inamoto
ではジャーナリストから質問を受けよう。

記者A(フィリピン)
今年のトレンドは?

Inamoto
実は受賞リストを見ても分かるように、本当にバリエーション豊かな作品が選ばれている。Matias、どうだい?

Matias Palm-Jensen[Chief Innovation Officer, McCann Erickson EMEA](欧州)
トレンドという意味では、よくお得意先が「アプリだよ、アプリが必要なんだ」と言っているけれど、実際にはさほどなかったかな。個人的にはいいことだと思うんだけど。後は、残念だったという意味で、浅いインサイト、つまり消費者の行動の軽い観察だけで発想していて、深いアイディアにまでなっていないものが多かった。だから「運転中にテキストメッセージを打つのは危険だ」というだけで何かを考えていて、もっと深いところまでいっていなかった。後はモバイルにおけるペイド・メディア(広告主が購入する媒体)の使い方のブレークスルーがなかった。

Inamoto
大事なポイントだ。モバイルだけでなく、広告収入モデルの基本だ。Dirk、どうだろう。広告会社ではない立場からどう思う?

Dirk Freytag[Chief Executive Officer, YOC](ドイツ)
まだモバイルを広告媒体として完璧にマネタイズできている人はいない。パブリッシャー(コンテンツ配信社)がトラフィックについて40%程はあると感じていても、マネタイズという意味では10%以下だったりする。今のように単にニュースコンテンツを端末で提供するだけではだめで、広告主とともに新たなモデルを作っていかないとだめ、というのが現状だろう。

記者B(南アフリカ)
アフリカのいくつかの市場では、携帯電話は登場と同時にコンピューターとして位置づけられている。国ごとに携帯電話の利用領域は異なるが、そのことについてどう考えたか?

Inamoto
グランプリはシンプルながら、派手なテクノロジーに頼らないでモバイルの力を最大限に活かした作品だ。国に関係なく、優れたアイディアを僕らは評価した。Scott、記者発表の最中に携帯電話を見ながら忙しそうだけど、どう?

Scott Seaborn[Executive Creative Director, XS2](イギリス)
ああ、大丈夫だ。一度、携帯電話を考えてみてほしい。マイクがついていて、スピーカーとカメラ、GPSのチップもあって、タッチスクリーンもある。クラウドにつながることで、これらは変化する。つまり、携帯電話自体は人の脳となる。カメラは目だし、マイクは耳、タッチスクリーンは肌だ。これらの要素と得意先の課題、そしてクリエイティブとして目指すところをかけ算しながら、市場が求めるソリューションをつくりあげていく。携帯電話の利用状況は違うということより、求められていることにきちんと応えているかが重要だ。

今後、モバイル領域では「課金」に注目が集まるだろう。Mobile credit becomes important currency.(モバイルが重要な市場通貨になっていく)はずだ。個人間のお金のやりとりも進んでいく。

Justin Baird[Partner, Jumptank](オーストラリア)
携帯電話の場合、スクリーンで何をするかにばかり注意がいくが、「コネクション」も大事な要素だ。Scrabble Wi-Fi(1)という作品はWi-Fiにつながる瞬間を、またSecond Life Apps(2)はアプリのアイコンをMarketing space(マーケティングの場)に変換している。

記者C(アメリカ)
ゴールド作品を審査した際の基準について知りたい。

Inamoto
まだまだ新しいカテゴリーだし、モバイル自体が行動変容を起こす新しいツールとして日々、世界中でどんどん普及している真っ最中だ。これまでの広告と手法は違うかもしれないけれど、アイディアの強さを徹底的に評価しようとした。Scrabble Wi-Fiはコネクションを上手にマーケティング化していたし、RBS(ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)のGet Cash(3)のユーティリティも優れている。
Gastonがまだ話していないかな。質問は審査規定だ。

Gaston Legorburu[Worldwide Chief Creative Officer, Sapient Nitro](グローバル)
このフェスティバルはクリエイティビティを賞賛するための場だ。課題解決やビジネスチャンス創造のためにモバイル技術が想像力あふれる形で使われているものを評価したよ。後は、頭から話しているけれどモバイルの規定だね。もう単なるアプリやiAd以上のものでないと。カンヌライオンズでも独立した部門として2年目だ。新しい、フレッシュなアイディアが欲しいね。

Baird
僕はエンジニア出身だから、まずMobile relevance(モバイルとしての適合性)を分析して、それからエモーションの深さをみてしまうけれど、最終的にはモバイル・プラットフォームを通じて、何らかの大きな価値を提供できているかどうか?に他ならない。リターン・オン・アイディア、つまりアイディアによってどれぐらい効果や見返りがあったかだ。

Inamoto
時間のようだけど、最後にこれで締めくくろう。僕なりのモバイルの定義は次の3つの要素があるかどうかだ。Is it portable,is it connected,is it pervasive? (ポータブルであるか、コネクションがあるか、広がる力があるか)だ。

そして、今年新設されたInnovation部門。審査員長は、自ら立ち上げたDroga5という広告会社以外に、2011年De-Deという名前の商品デザインやイノベーション開発を主軸においたIP企業を独自に起業したDavid Droga氏[Founder/Creative chairman, Droga5](アメリカ)。De-Deが開発したThunderclap(4)もInnovation Lionを受賞、これまで受賞したライオンの数は史上最多の80を超え、その勢いはとどまるところを知らない。

Innovation Press Conference

Phil Thomas
Innovation部門、初めての記者発表にようこそ。背景を少し説明しましょう。この部門の設立にあたっては、2010年からずっと業界関係者と話し合いを重ねてきました。クリエイティブ・アイディアの背景でテクノロジーがどのように機能しているか、そのテクノロジーを評価できないか、ということから始まり、そのような部門を設立できないかについて時間をかけて考えてきたのです。

今回の審査員団も、広告、テクノロジー、デジタルといった各業界から、さまざまな職域の審査員が集まってくれました。この部門の設立によって、イノベーションがカンヌライオンズにおいて重要な位置を占めるようになるし、フェスティバルは全く新しい方向へと導かれることになると確信しています。

今回ショートリストのプレゼンテーションを生で見ることができなかった人は、来年は是非見てください。審査員だけでなく一般参加者の前でプレゼンテーションをするのはカンヌ史上初の試みで、かつInnovation部門限定で行われましたが、どういう志向性や方法論でそのアウトプットに至ったのかをプレゼン登壇者と審査員たちがやりとりする、それを同じ空間でライブで見聞きできるという、非常に貴重な場になりました。では初代審査委員長のDavid Drogaにマイクを譲りましょう。

David Droga
これまでもTitanium、Film、Press部門の審査委員長として参加した審査は示唆に富むものだった。ただ、個人的にも、プロフェッショナルとしても、今回の審査は非常に学ぶことが多く、そして、なによりもワクワクするものだった。国だけでなく、職域や視点も非常に多様な審査員と熱いディスカッションをすることができて、大きな刺激をもらえたよ。

まず、ショートリストに選ばれると、実際にカンヌライオンズ会場で審査員団と一般客の前で10分のプレゼンテーションと10分のQ&Aを行う必要がある。僕らだけでなく、立ち見も出るほどの一般参加者とその過程をシェアできる、素晴らしい場になったと思う。非常に楽しかったし、リアルな対話が新鮮だったよ。質疑応答では、あくまでも真摯に彼らのやってきたこと、興味領域などを丁寧に理解するようにした。

他の部門の審査基準は、良いか、悪いか、あるいはものすごく良いかだ。でも、Innovation部門は全く違う。これまでなかったものを探す旅みたいなものなんだ。良いとか悪いとかではなく、イノベーションの鋭さや提案力を見る必要があった。

あえて言うと、他の部門は、過去一年間で世の中に出たもののベストを審査するという時間軸だが、この部門は未来を見据える審査だった。

グランプリは、Cinder。映像インスタレーションのためのベースとして、今年カンヌライオンズに応募された複数の別作品でも使用されたプログラムで、業界全体に対してイノベーションという観点から大いに貢献した。Theodore Levittだったと思うけど、“Creativity is thinking up new things.Innovation is doing new things.”(クリエイティビティとは新しいことを発想すること。イノベーションとは新しいことを実現すること)という言葉がある。まさにこの言葉のように業界が動く感じがした。

記者A(アメリカ)
グランプリのCinderについて、どうして選ばれたのかもう少し詳しく教えてほしい。

Droga
Cinderはプラットフォームだけど、今回カンヌライオンズに出品されている作品の20から30、もしくは50ぐらいのエントリーに確実に使われているはずだ。そういた意味で、Spirit of Innovation(イノベーションの真髄)を帯びていて、業界にとってインスピレーションの塊ともいえる。審査員も全員一致でこの作品をグランプリに選んだし、実際、審査員の多くがCinderのことを知っていたし、使いこなしている人もいたくらいだ。

記者B
他にどんな作品が審査過程で話題になったのか、ぜひ教えてほしい。

Droga
作品をじっくり見てもらいたいんだけど、グランプリ以外の受賞作を見ても非常に幅があったことが分かるはずだ。

例えば、MasterCardのDisplay Card(5)は使用金額がカードにデジタル表示されるクレジットカードで、商品開発自体のイノベーションが金融業に非常に大きなチャンスをもたらすだろうし、あるいはロシアの全く新しいスマートフォン(6)やThunderclapもそうだが、単に今の時間軸で僕らの業界のためにつくられているというわけではなく、未来や社会全体に対して寄与していくようなものになっている。他に誰かコメントあるかな?

Mike Parker[Chief Digital Officer, McCann](グローバル):
この部門はおそらく、唯一クライアントからのオリエンがない形でものづくりをしてエントリー出来る部門だろう。例えば技術会社だったら、自社の商品やサービスを応募することができるし、広告会社だとしてもオリエンに対してキャンペーンで答えるのではなく、商品やソフトウェア、あるいはプラットフォームという形で答えを返している場合には、この部門に非常に向いているだろう。

Droga
そういった志向性がこの業界の未来を守っていくんだろう。自分たちの目の前にキャンバスがあれば、イノベーションによってそのキャンバスがどんどん大きくなっていくし、そこに大きなポテンシャルをみいだすことができるようになる。

そうだ。あと、審査員団には必ず日本人を入れた方がいいね。みんなが「すごいイノベーションじゃない!?」と審査中にいうと、Mori Harano[代表/クリエイティブディレクター、株式会社もり](日本)は「これ、6年前に日本でやってるよ」っていつも言うんだよね。みんなで新しい単語を開発したくらいよ。“Japoened”(ジャポーンド)っていうんだ。これJapoenedされていないか?というチェックのためにも、日本人審査員は大事かもね(笑)。

記者C(イギリス)
審査基準は?

Droga
まず、単なるキャンペーン・アイディアではなく、もっともっと大きなアイディアになっているか。そして、他の部門にはない、業界全体を前に推し進める偉大なテクノロジーになっているか、今の世の中に役立つだけでなく今後、自分たちの得意先だけでなく競合にも、この業界にかかわる人全体にとってのベネフィットになっていくかどうかだ。

例えば来年その作品のテクノロジーを使って別の作品が他の部門にエントリーされるかどうか、そういったことを考えながら審査をした。まさにUnlock the creativity of others(他の人の持つクリエイティビティを開放するかどうか)を審査したよ。

記者D(フィリピン)
審査をしていて非常に難しかった点はあったか?

Emad Tahtouh[Director of Creative Technology, 37 Degrees](オーストラリア)
応募してきた人の頭の中ではコンセプト化できていても、ものによってはまだ開発段階で実現には程遠いものがあったから、そこをしっかり吟味することが大事だった。ショートリストを選ぶ時には、ケース・スタディのビデオで判断しなければならなかったので、そこが難しいといえば難しかったと思う。

Droga
ショートリストのプレゼンテーションが本当によかったのは、すごく言葉の上手いセールスマンが壇上に上がってプレゼンしたのではなく、本当にエントリー作品を手掛けた人が語り、質疑応答に参加してくれていたので、非常に信頼できるものだったし、答えの精度が高いという意味で、役に立った。

クリエイティビィを独占することはだれにもできない。今回みていて、広告業界の中からも外からも、両方から良いエントリー作品があったと思っている。ただ、今後は広告業界内から新しいやり口がふえていくだろう。これまでのトラディショナルな方法ではなく、例えばユーティリティの設計だったり、プロダクトづくりだったり、今回のグランプリのようなプラットフォームを作ったり、広告会社側からいろいろなものが生まれてくるだろう。

Tahtouh
そう考えると、もしかしたらコピーライティングやアートディレクションといった職域と並び、コーディングが必須なスキルとなってくるだろうね。
Droga
これまでは広告会社は、広告主からのオリエンに対して「キャンペーン」で応えていた。けれども、逆にプロダクト・アイディアを提案するやり方はすでにスタートしているし、確かにそういった中ではコーディングも大事なスキルになってくるだろうね。

ただそれだけではなく、たとえばプロダクト・アイディアをプレゼンするなら、プロトタイピングをどうしていくのか、あるいは関係者を集めたときのワークショップをどういうように実施し、なにをそこから引き出していくのか、あるいはインターフェースだったらタッチスクリーンなのかナチュラル・インターフェースなのか、そこをどう考えどう具現化していくかなど、コードを書くだけでなく様々なスキルが必要になってくるだろう。広告会社はもっとものづくり、いや、デジタルものづくりの方向に進んでいくだろう。

記者E(ブラジル)
審査員の皆さんは様々なバックグラウンドをもっているが、技術面ではどうなのか、教えてほしい。
Tahtouh
僕は、今はトラディショナルな映像制作会社にいるけれど、テクノロジー寄りの業務を担当している。もともとは通信会社でエンジニアをやっていて、そこから理論的領域にシフトして、今の会社に至る。優れた開発者の20倍くらい時間がかかるかもしれないけど、缶詰になればCinderのコーディングは解ける。
Ben Richards[Creative Lead, Microsoft](イギリス)
僕はマイクロソフト・テクノロジーズで働いていて、クリエイティブエージェンシーとも日々の仕事でコミュニケーションをとっている。

Emadはプレゼンの質疑応答で非常に良い質問をしていたと思うし、僕も技術だけでなく、スケール・メリットがどうなっているのかを中心に質問したつもりだよ。

Aaron Koblin[Executive Creative Director, Google](アメリカ)
僕はGoogleにもう5年いるけど、プログラマー数人を束ねていて、毎日ソフトウェア開発を担当している。プログラミングを始めたのは8歳か、9歳の頃だったかな。
Francisco Saboya[Director/President/CEO, Núcleo de Gestão Porto Digital](ブラジル)
私はエコノミストだ。ブラジルの北東にある大学で経済学の教授をしているし、科学技術館のCEOも現在務めている。ソフトウェア開発とクリエイティブ業界を結びつけるような仕事をしているよ。

記者F(南アフリカ)
今回はすべてワン・カテゴリーで一緒くたに審査をしたが、プロダクト系あるいはソフトウェア系と分けて審査することは考えているか?というのも、CinderやThunderclapというプラットフォーム系がありながら、一方で、クレジットカードや携帯電話といったプロダクトがある。この二つを分けてもいいのではないか?
Droga
実際に審査する過程において、こんなに違うものを一緒に審査するのはフェアなのか?という議論もあったし、カテゴリーを分けた方がいいのでは?という話も出た。

ただ、ゴールド・シルバー・ブロンズという分け方は絶対すべきでないと思う。There is no Bronze Innovation,(ブロンズのイノベーションなんてない)だって、そんなの本当にイノベーティブなのかなぁ、って思わない?

今後カンヌ事務局とも話しながら、来年以降の審査がやりやすいようにしていきたい。詳しいことはまだ言えないけど、大きく業界を前進させるテクノロジーであるかどうか、みんながそこで教示できるかどうかは変わらない。

そして、審査過程で登場した審査員によるコメントが沢山あったんだ。例えば、プロトタイプ、開発途中、バージョン2の制作過程、といったように様々に途中段階はあれど、僕らのコメントがフィードバックされれば、物凄く役に立つだろうとみんなひしひしと感じていて、そういったことができないかどうかも考えてみたいと思っている。当然、僕らのコメントをよしとするかどうかは相手の判断次第だけど、そういった有機的なやり取りもできるといいな。

次に、Titanium & Integrated部門を。これまでの功績を認められ、去年二代目のLion of St.Markを受賞したDan Wieden氏[Co-Founder/Chairman, Wieden + Kennedy](アメリカ)が審査員長を務めた。ナイキのJUST DO ITのコピーを手掛けたことでも知られる同氏によって設立された背景のあるTitaniumは、新しい領域を切り開くような画期的作品が選ばれる部門。

Titanium & Integrated Press Conference

Phil Thomas
ジャーナリストの皆さん、おはようございます、そしておめでとう。この一週間、盛りだくさんだったはずだ。この土曜の朝にきっちり集まってくれただけでも大きな賞賛を贈りたいと思う。本当にありがとう。

60周年を迎えるにあたって、カンヌ史上というだけでなく、どこのフェスティバルも実現しえなかったような、特別な審査員たちに集まってもらおうと準備してきた。Titanium&Integrated部門も、まさにベスト中のベストといったメンバーを選出できたと思っている。そもそもTitanium自体を形作ってくれたDan Wieden氏が審査委員長として来てくれて、非常に光栄だ。ただ、Danは審査をするのはこれで最後にするそうで、非常に残念でしかたがないけれど、今回、業界でも非常に重要な人物に審査をしてもらえてよかったと思っている。

Dan Wieden
本当のことをいうと審査って嫌いなんだよね。本心を言うと、こういったショー的なことも好きじゃないし。France is cool.(フランスはクール)でいいんだけど(笑)。

でもやっぱりカンヌには、なにかがあるんだ。世界中から集まってくる作品の魅力だったり、それこそ世界から集まってくる、ここにいる審査員もそうだし、素晴らしい経験ができる場なんだ。だから来たんだけどね。審査をしていて、脳みそが溶けだしそうなくらい疲れていても、優れた作品を優れた仲間と一緒に見て、話せる。これほどインスパイアされることがあるだろうか。

では、Integrated のグランプリ、“Dumb ways to die”(アホな死に方)、そしてTitaniumのグランプリ、“Real Beauty Sketches”(リアル・ビューティー・スケッチ)の映像を流そう。

(映像終了)

Wieden
まずIntegrated部門については、様々な要素を最もスムーズに統合し、しかも高い自由度を持って実現していた作品を選んだ。インテグレーション(統合)というと複雑化していくのが常だが、必要なものをダイナミックに組み合わせることの良さが際立っていた。オーディエンスに対するLove and respect(愛情と尊敬)から生まれたキャンペーンだ。シンプルで、どうしたら共感を生むことが出来るのか徹底的に考え抜かれている。やり方がクレバーなだけでなく、非常に深いところで心と心をつなぎ合わせようとしているブランドの姿勢も伝わってくるし、自分のことをリアルに気にかけてくれると思わせてくれる。エンターテイメント性にあふれ、心をとらえ、笑顔にさせてくれる作品だ。

そしてTitaniumだが、まず、2003年に僕がTitanium部門を作り上げた際に考えていたことを話そう。一言でいうとNew way forward(前進するための新しい形)とは一体なんなのか、広告業界全体をこれまでにない新しい方向へと押しだしてくれる作品は何なのか、そういった考えのもとで生まれた部門だった。その後いろいろな意味をもつようになり、複数受賞があるなど審査形態が様々に変化してきたが、Titaniumはもっと特化したものであるべきだ。だから、みんなで話し合いながら、今の時代に合った形で部門の評価基準を再定義してみた。今後もこの定義どおりだと嬉しい。文章にしたから、読みあげることにしよう。

“The Titanium has given in recognition of work that is truly transformational, that signals perhaps a new way forward, not just for the self-interest of the client or the agency, but fundamentally for the customers we both serve. ”
(Titaniumは、世の中の在り方を革新的に変えてしまうような、そしてある意味、前進するための新しい形を示唆するような作品を評価するために存在する。単に広告主や広告会社自らのメリットのためではなく、両方が仕える顧客に対し、本質的な価値を提供できているかによる。)

この定義が明確になったら、どの作品がグランプリかはすぐに明白になったし、この部門の独自性も獲得できた。

記者A(シンガポール)
もうすこしIntegratedの規定について聞かせてもらえませんか?

Susan Credle[Chief Creative Officer, Leo Burnett](アメリカ)
“Dumb ways to die”は非常にインテグレーションが上手くできていた作品よ。今、複数の媒体やメッセージを統合して構築されていないキャンペーンはほぼないと言える。でも、“Dumb ways to die”は、いわゆる統合キャンペーンで使用しうる全要素をリスト化して、一つずつチェックしながらキャンペーンを組んだのではなくて、一度耳にしたら忘れられない、伝播しやすい音楽を軸にして、ラジオやCMで展開し、非常にシンプルでありながら、効果的な形で統合キャンペーンを組んでいたの。統合キャンペーンは単にSystem(仕組み)を評価するのではなく、アイディアの強さやクラフトの良さも合わせて評価しているわ。この作品はひとつひとつの要素も非常に優れていた。

Piyush Pandey[Executive Chairman & Creative Director Sough Asia, Ogilvy & Mather](インド)
簡単に言うと、Integratedは、いかにシームレスに統合されているかが評価される。一方Titaniumはクオリティ、つまりDepth of an idea(アイディアの深さ)がポイントになる。どんなメディアをどう使ったか、ということではなく、アイディアそのものが非常に大きな力をもっているか。そこに尽きる。
Wieden
TitaniumとIntegratedは全然違う。Titaniumは何を言うかについて、非常に誠実に考えて作られた作品が評価される。面白いジョークや見た目の表現がすごいというレベルではなく、そのずっと先を行くものだ。他の作品と違って、Doveの“Real Beauty Sketches”は顧客に対するリスペクトを非常に丁寧に描き出していた。Integratedは、本当に効果の出るメディアをスマートに組み合わせてキャンペーンを構築するが、やっぱりそれもリスペクトというところに戻ってくると思う。なぜならば広告というものはすべてHuman Truth(人間にとっての真実)がその根源にあるからだ。
記者B(イギリス)
“Real Beauty Sketches”をTitaniumのグランプリに選ぶことによって、広告主にどんなメッセージを伝えようとしているか?
Wieden
さっきも言ったけど、カンヌライオンズに対しても意義のある問いだと思う。このフェスティバルは誰のためにあるのか?広告会社のためか?広告主のためか?何年か前から広告主がかなり訪れるようになって、一体なにしに来たんだ(笑)?という感じだったけれど。「両者が仕える顧客のため」という評価基準をもついい時期だと思う。僕らの意識の奥の奥で、誰のために広告づくりをしているのか考えるべきだ。

“Real Beauty Sketches”は6つのエピソードがあるんだけど、全部見てほしい。商品自体は何年も全く変わっていない。でもこのキャンペーンは、これまでよりもずっと深いレベルで、消費者とブランドがつながることを可能にした。ビッグアイディアがあれば、人との深い関係は築くができる。

Credle
商品が人々の生活に対して大きな価値を提供しているんだから、コミュニケーションもそうでなくてはいけないわ。
記者C(フィリピン)
カンヌライオンズは今年で60周年ですが、広告業界は今後どのようになることを望むか?
Wieden
もちろん、業界としてもっと良いものをどんどんつくっていく、それに尽きる。そしてそのことは、やっぱり人々を敬う気持ちと丁寧にモノづくりをすること、そして敬意をはらうこと、そういったところからしか生まれてこない。どんなメッセージにするかという言葉の設計だけではまったく足りなくて、どういう心で相手と通じ合いたいのか、そこを考えなければならない。それができるようになったらどんどん良くなるだろう。

本当にいい仕事をしたいなら、クレバーで真摯であるべきだ。本当のエンターテイメントはそこから生まれる。

記者D(アメリカ)
他にTitaniumとIntegratedでグランプリ候補になった作品は?
Wieden
そういった作品をリストアップするのはよくないと思う。僕らは一番良いと思うものをグランプリにしたし、そうじゃないものはグランプリにならなかった。それだけだ。

みんなで論理的なディスカッションを繰り返しながらも、最後は一人ひとりの心をつかむ何らかの作品がもつマジックを評価しているんだ。結局、なぜ自分の心にここまでの印象を残している作品なのか、なぜこんなにつきまとってくる作品なのか、なぜ今まで思ってもみなかったことを自分に考えさせているのか、そんな影響力を与えてくれる作品を選んだ。だから、何が最後までどう争ったかは関係ない。

記者E(オーストラリア)
過去の受賞作品にはテクノロジーが使われた作品があったが、今回非常にローテクな作品がグランプリに選ばれている。今テクノロジーについてはどう考えているか?
Leonardo Premutico[Co-Founder, Johannes Leonardo](アメリカ)
単に新しいことをしたいというだけで新しい技術を使っている作品を選出するのはやめようと、審査の最初の段階で話し合った。僕たち広告業界は、テクノロジーで何をするかではなく、消費者にどんな貢献ができるかを考える業界であるはずだ。だからこそ、毎年Titaniumは新しいテクノロジーを反映したものじゃなきゃいけないなんてことはないし、そんなことを考えたら道を誤ることになるだろう。評価されるべきはグレート・アイディアだ。
記者F(ベルギー)
もう一度似た質問をするが、今回テクノロジーがそれほど鍵にならなかったのは、Innovation部門とのすみわけのためか?
Thomas
Innovation部門は、業界が更にクリエイティビティあふれる仕事をするためのテクノロジーを評価する部門だ。ブランドキャンペーンの手前の段階を評価するものだ。そしてCinderという高度なビジュアル表現制作を可能にするプログラムがグランプリに選ばれた。

アイディアを考えるプロセスには三つある。ひとつは、アイディア自体をつくるプロセス。誰かの頭にアイディアが生まれる瞬間だ。でもイノベーションにはまだ早い。そして三つめは、キャンペーン・アイディアが形づくられる時。でも、それではイノベーションの話をするには遅すぎる。

Innovation部門はちょうどその間に位置づけられていて、プラットフォームやソフトウェア、ハードウエア、あるいはアプリといったものが、いかにクリエイターたちにとってもっといい仕事を生み出しうるのかを評価する。

一方、Titanium部門は、テクノロジーを評価するための部門ではなく、アイディアを評価する部門だ。評価が別なんだ。すみわけの必要はない。

うさぎ(『広告|恋する芸術と科学』編集部
様々に複雑化し変化している時代だけれど、いま、カンヌに来れずに自国で一生懸命がんばっている若手に、Danから応援の言葉をもらえるか?
Wieden
喜んで。自分のキャリアづくりにとって最も大事なのは、まずFigure out who you are.(自分がどういう人間か探求しつくすこと)。そして自分が持っている才能はなんなのかを見極め、それを徹底的に追及する。そして、Your own perspectives on the world(世界に対して自分だけがもちうる視点)を明確にすることだ。君が世界に対してなにをぶつけるか、ぶつけられるかだ。

今の世の中にはそういった思いを実現するためのツールがあふれている。そして面白い人もいっぱいいる。そういったツールや素晴らしい人々と一緒に活動することによって、新しいものが形づくられる。それは料理のようなもので、いろんなものを一緒に鍋に入れると、徐々に良い具合にグツグツ煮えてくるだろ。あの感じをイメージしてほしい。

多くのことは自分の本能や直感、あるいは心の動きに直結するだろう。だが、それを形にするには様々な視点と技が必要だ。すべてをつくりあげたなら、後からもっと大きなチャンスがついてくる。少なくともここにいる僕たちにとっては、そうだ。

次はFilm Craft部門。審査委員長を務めたのは、強面のアメリカ人監督Joe Pytka氏[Director, Joseph Pytka Productions](アメリカ)。マイケル・ジャクソンのPVやNIKEのCM等、輝かしい経歴をもつ、見かけもキャリアもまさに「泣く子も黙る」巨匠が、ブラックジョークをまじえながら記者発表を行った。

Film Craft Press Conference

Terry Savage[Chairman, Cannes Lions International Festival of Creativity]
ジャーナリストのみなさん、席についてください。お待たせしました。Film Craft 部門の記者会見を始めます。よろしいですか。ではさっそく。審査員長のJoe Pytka氏です。
Joe Pytka
いきなりだな。なんの話をすればいいんだよ。(受賞リストをあごで指しながら)これかい?それより、ちゃんとジャーナリストとやらは揃ってるのか?まあ、始めよう。

審査はまるで地獄のようだったよ。この部屋から誰も一歩も出ることはできない、って言われて…17ヵ月はいたかな?そんな、大変だった審査だったけれど、無事に終了したのは他でもない、ここにいる審査員たちのおかげだ。ものすごく凝り固まった見方をするオレに対して、チャレンジしてくるやつはいるし、ものの見方を説いてくるやつもいた。オレにだぜ。でも誠心誠意、良い審査員たちだ。

審査を始めたときは、「どうしよう、今年は賞に値する作品がないかもしれない」と思ったけれど、審査が終わってみたら、非常にシンプルな作品から複雑なものまで、沢山の素晴らしい作品を選ぶことができた。

グランプリは誰が見ても一目瞭然だった。至極まっとうな作品がグランプリになったと思う。今日までグランプリの作品名を言うなと言われてきたので、やっと発表できると思うと…

Savage
この記者発表の受付と同時に受賞リストを配布されているから、みんなグランプリはもう分かっているよ。
Pytka
えっ。でも、These guys are just journalists, right?(こいつらジャーナリストだろ?)なんも分かってやしないぜ。

じゃ、グランプリ発表だ。いいかい、静粛に。

グランプリは“Meet the Superhumans”(この超人たちを、見よ)(P.〇〇059参照)、イギリスの放送局のチャンネル4による作品だ。ものすごく深いレベルでエモーションをとらえている作品で、登場する選手たちは、身体的な能力に大きな制約があるがその限界を打ち破ろうとしている。非常にドラマチック。インスピレーションの塊だ。今回の審査基準にしたのは、「何もかもがパーフェクトな作品をみんなで選ぼう」ということ。全ての要素をパーフェクトに作り上げることは、なかなかできることじゃないのに、この“Meet the Superhumans”は、グランプリはこの作品しかないと強く思わせるほどの編集の妙、シネマトグラフィー(映像演出)、キャスト、衣装、音楽のサプライズ、サウンド・デザインの素晴らしさなど、あらゆる要素が群を抜いていた。すべてがここまでのレベルで完璧だなんて、なかなか難しいことだ。

例えばEditing was clever where it needed to be clever, but the rest was so honest.(編集は、クレバーにじゃないきゃいけないところはクレバーにつないであるけれど、それ以外の部分は誠実さに裏打ちされた編集になっている)。音楽も、サプライズがあって、でもぴったりの選曲だ。見れば見るほど夢中になったよ。だからこそ対抗馬になりうる候補作品を必死になって探したんだけど、探せば探すほど、このCMの良さが際立っていくばかりだった。…って、どのくらい喋り続けたらみんな飽きるかな?じゃ質問でも受け付けようか。

うさぎ(『広告』編集部
途中で3~4シーンほど、なぜ選手たちが今の状況になってしまったかを説明するインサートがあるが、あれは必要だったのか?審査員の見解を知りたい。

Pytka
分かんないの?
うさぎ
だってジャーナリストだから。
Pytka
上手い返しだな。実は審査しているときにもその話は出たんだ。何度かディスカッションしたけど、なぜ身体的制限を持つようになったかを知らせるには必要なカットだと思っている。

僕だったら入れなかっただろうけど、面白いポイントだ。編集的に考えると、選手だけの映像、スポーツだけの映像に対して、ちょっとしたショック効果が効くんだ。単調な映像だと、だいたい分かったよ、と勘のいい視聴者に見透かされるかもしれない。それに対して、ちょっとしたゆさぶりをかけているんだ。

オレは映像作家だから、すごく頭がいいわけではない。だからこそ見た瞬間にインパクトがあるかどうか、あるいはそれを自分が好きか嫌いかを瞬時に判断する。そういった意味では、悪くないと思う。特に戦争の一シーンを考えてみると、ものすごく深い、大きなメッセージを送ってきていると思う。交通事故や先天的原因といったことは、みんな想像がつくだろうけれど、戦地での負傷からハンディを負うことになってしまったというのは、大きなメッセージだ。

記者A(アメリカ)
音楽の要素について、もう少し説明してほしい。
Pytka
音楽はものすごく生で、ライブ感があるし、力強い。テーマそのものに言及していると思う。前向きでダイナミックで非常にエモーショナル。正にスポーツそのものの強さと比例している。しかもサウンド・デザインが映像とも音楽とも一体化しているし、このCMの演出家は本当に評価されるべきだと思う。
記者B(フィリピン)
このCMをグランプリに選ぶことで、業界に伝えたいメッセージは何か?
Pytka
自分たちの業界が実現できる最高峰はどこにあるのか、それをみんなに見てほしい。今みたいに世界的に経済が停滞している時は、人は消極的になりがちでリスクを取らないようになる。CMを見ていても、映像の中にマーケティング戦略だとか、得意先のオリエンだとか、広告会社の制作者の考えとか、そういったものが見えてくるとがっかりする。良いものはいい、それだけだ。クリエイティビティをリスペクトしてこそレベルは上がる。

そもそもWe’re rule breakers.(僕らはルールを壊すために存在している)。過程を見直し、ルールをこわすことで新しいコミュニケーションの手法を生み出すんだ。17ヵ月あの部屋で審査をしていると、分かってくるんだよね。

Savage
17ヵ月じゃなくて、7日間だよ。
Pytka
これで質問に答えたことになったかな?才能あふれる審査員ばかりだから、もっと質問して彼らの話も聞いてみて。まぁ君たちのことだから、言ってることが分かるかどうか心配だけど。
記者C(アメリカ)
グランプリを争った作品はあったのか?あれば、どの作品か教えてほしい。
審査員A
Southern Comfortの“Whatever’s Comfortable Beach”(7)と、COME 4 “The Lover”(8)が争っていたかな?
Pytka
“Whatever’s Comfortable Beach”は、デブな男がビーチを歩いているだけのCM。デブにグランプリはないだろ?ま、それは冗談だけど。あのCMは引き算のクリエイティブだった。やらなかったことがすべてプラスに出ていた。

もうひとつは“The Lover”という、非営利のポルノ・チャンネルのCM。申し込むと、料金の一部がハンディキャップを持った人に寄付されるそうだ。ハンディキャップを背負った人も、性生活という意味では健常者と変わらない。タブーともいえる、広告がいままで入り込んだことのない領域で、非常に良いクリエイティブ・アウトプットを展開した。シネマトグラフィー、編集、演出、アート・ディレクション、どれをとっても非常にレベルの高いものだった。ピカソのエロチックな版画や、フランシス・ベーコンの暗部を彷彿とさせるような描き方だ。二人のオランダ人による作品だが、偉大な映画監督Carl Dreyerの作品も連想させられる。Dreyerがどういう人か知らなければ、彼のサイレント、あるいはトーキーを見るべきだ。映像作りを全く新しいレベルにまで押し上げた人物だ。

記者D(南米)
技術が進化する中で、今興味のあるのはどんなスクリーンか?テレビか?それ以外にあるか?
Pytka
監督というのは、非常にわがままで、We only listen to our own dogma.(自身のドグマにしか従わない)。だから、今のマルチ・スクリーンの世の中についてどう思うか?と聞かれたら、なにが携帯だ、なにがタブレットだ、なにがマルチ・スクリーンだ!と言いたいね。一番良いのは、世界一大きなスクリーンで自分の作品が流れることだ。今あえてCinema!(シネアド広告:映画館で流れるCM)をやりたいくらいだ。

今回、審査という意味では貴重な体験ができたと思う。さまざまな作品が選ばれたが、もっとこれまで以上に、こういったディスカッションを業界として続けていくべきだと思うよ。今日は以上だ、どうもありがとう。

そして最後に、一連の記者発表を締めくくった一番の老舗部門、Film部門の記者発表を。審査員長はこれまでの貢献を称えられ、一昨年初代Lion of St.Markに輝いたイギリスのJohn Hegarty卿[Founder and Creative, BBH](イギリス)。シックな風貌とは裏腹に、Levi’sやAXEのエッジの効いたブランド・ストーリーを手掛けてきた人物。

Film Press Conference

Phil Thomas
Innovation部門、初プレスの皆さん、今週最後の記者発表にようこそ。最初に一言だけお伝えすると、今年の審査員団は、グランプリを二つ選んでいます。もともとこの部門はテレビCMだけが対象でした。ところが「テレビ以外のスクリーンにおける映像」というサブ・カテゴリーを新設することになり、それぞれの審査上の違いが大きいため、別々にグランプリを選出してよい、というルールを合わせて設けたんです。つまり、一つだけでもいいし、二つでもいい。今年は二つのグランプリが出ています。それでは、今年の審査委員長のJohn Hegarty氏、どうぞ。
Sir John Hegarty
皆さん、こんにちは。世界から集まった優秀な人たちと審査が出来たことを非常に嬉しく思うよ。最初にみんなで話したのは、二つのグランプリを探しだせるといいね、ということ。

いくら世の中がマルチ・スクリーン化してきているとはいえ、すべてを一つの基準で評価するなんてナンセンス。世界の年間広告費は5,000億ドルだが、そのうちの2,000億はテレビに費やされている。だから、まずはテレビCMを一つのしっかりしたジャンルとして評価したいと考えた。一方で、それ以外のCM、これらはほぼインターネット上で流される長尺フィルムだが、これらはテレビCMとは異なる評価基準が必要だから、それぞれにグランプリを選ぶようにした。Longer does not necessarily mean good.(「長尺」とはいえ、長ければいいというものではない)クリエイティブの人間にとって、編集するという能力は必須だ。長尺フィルムの善し悪しは、普通のCMというよりサンダンス映画祭やアカデミー賞で受賞している作品と比較されるべきだ。

結果、CM部門では“Dumb ways to die”(アホな死に方)(P.〇〇056参照)が、長尺CM部門では “The Beauty Inside” (ザ・ビューティー・インサイド)(P.〇〇057参照)がグランプリに輝いた。前者の評価ポイントは、いわゆる狭い意味での広告以上の大きなパフォーマンスを発揮した点だ。この作品はもはや「広告」ではなく、Fabric of the society(社会を構成する一要素)だ。それほどのインパクトがある。いつも周りの人に言うのは、「僕らは広告業界で仕事をしているけれども、広告業界で生活しているわけではない」ということ。だから、表現を考えるときも、単に広告の領域に収まるものではなくて、もっと大きな構えの、社会の一部になっているような、そんなものを作らなくちゃいけないんだと常に話しているんだ。

Ant Keogh[Executive Creative Director, Clemenger BBDO Melbourne](オーストラリア)
そして、もう一つの“The Beauty Inside”は、ブランドがもつコアの価値をうまく表現していた。PCの中に存在するブランドである「インテル・インサイド」ということが非常にうまく伝わってくる。クレバーで、かつ深いブランド・ストーリーだ。だから、この二つは作品として大きく異なるけれど、素晴らしさにおいてはどちらも格別だ。
Hegarty
質問を受けつけよう。
記者A(アメリカ)
イギリスの放送局、チャンネル4の“Meet the Superhumans”(この超人たちを、見よ)がゴールドだったけど、グランプリに肉薄した、といったことは?
Carlo Cavallone[Executive Creative Director, 72andsunny](オランダ)
素晴らしいキャンペーンで、ゴールドの中でも際だった作品だ。クラフトも素晴らしい。2012年のロンドン・オリンピックの、ともすれば陰になってしまうパラリンピックに非常にうまく光をあてていた。ただ、“Dumb ways to die”の方が総合的に強かったんだ。音楽も編集も素晴らしかったけれど、最終的にはグランプリにならなかった。
記者B(アメリカ)
審査員の何人かと話したところ、今回は、プロダクション、つまり表現定着のレベルがそれほど高くなかったという話だが?
Lisa Bennett[EVP/Creative, DDB North America/DDB Worldwide](アメリカ)
そんなことはないわ。もちろん、私たちはフィルムの審査員だから、クラフトじゃなくてアイディアの強さを審査したの。アイディアがどれくらい強いか、心に響いてくるものか、自分たちに語りかけてくるものか、そしてブランドの価値をきちんと伝えているか。こういったことを審査したのよ。例えば、“The Beauty Inside”は素晴らしいわ。表現だけでなく、コンセプトをみても、ブランドのど真ん中からアイディアが生まれているし、それがキャスティングやコピーライティングに非常にうまく反映されている。でも、どれを見ても十分表現定着のレベルは高かったし、表現力に溢れていたわ。
記者C(イギリス)
さきほどの長尺フィルムについての「長いから良いとは限らない」というコメントが、非常に印象に残った。いま世の中をみてみると、尺に関しては非常に沢山の実験が行われている。通常の30秒や60秒以外に、当然短い15秒CMもあるし、インターネットのVine(最長6秒のムービーを共有できる動画共有アプリ)では6秒のビデオを一般の人が制作している。こういった動きについてどう考えているのか?
Hegarty
テクノロジーはクリエイティビティを刺激する。確かに、実験は非常に面白い。技術が広がれば広がるほど新しいことが起きてくるだろう。だが、本質を忘れてはならない。テレビCMにおいてストーリー・テリングは本質的な要素だ。6秒でストーリーを伝えるというのは難しい。言葉が流れてしまうからだ。
Keogh
今回たくさんの長尺フィルムを見たが、大体が次の二つのどちらかだ。ブランドが非常に分かりやすいのに、まったくエンターテイメントがない場合。見ていられなくなるような、興味がなくなってしまうようなものだ。そして、もうひとつは、エンターテイメント性には優れているが、ブランドが全然見えてこないもの。見ていても、「何のブランドのCMだっけ?」と思ってしまうようなものだ。

今回のグランプリのひとつ、“The Beauty Inside”は6つのエピソードからなるが、一つ見たら、すぐに次が見たいと審査員に思わせた唯一の作品だったのではないかと思ってしまうほど、力強い作品だった。素晴らしいエンターテイメントでありながら、きちんとインテルの価値が伝わる。絶妙のさじ加減で両方が成立しているんだ。

記者D(フィリピン)
インテルの“The Beauty Inside”キャンペーンで非常に面白いと思ったのは、ソーシャルの要素が強いこと。それについて審査員団でなにか話されたことは?
Hegarty
素晴らしい作品には常にソーシャルの要素がある。人としての心の琴線を揺らすもの。心の真ん中に触れてくるもの。それはインターネットの表層的な兆候をなぞる、といったようなレベルではなく、非常に深いところで人の心をとらえ、伝播していく。そういったソーシャルな要素があったと考えている。
Thomas
最後に、短い質問があれば受け付けます。
うさぎ(『広告|恋する芸術と科学』編集部
去年のカンヌライオンズのDan Wieden氏との対談でJohnは「広告会社をスタートするならば、テクノロジーもどんどん増えている今が一番面白い」と話していたが、今、それぞれ本国で頑張っている若者に対してどんな言葉をかけたいと思う?
Hegarty
そうだ、確かに去年のセミナーの対談で、広告業界にいるならば今がベストの時期だと言った。若い時に新しいことを体験できるのは素晴らしいことだ。

僕が広告業界でキャリアをスタートした時代、若いということはディスアドバンテージだった。既存ルールに基づいて業界全部が動いていた時代だからだ。僕らは若くて、まだ何がどうなっているのかも分からず、メディアについてもよく知らず、そんな状況だった。

でも今は逆だ。若者はみんな、デジタルのおかげである程度のテクノロジーの知識や経験を得てから広告業界に入ってきている。会議室に僕のような人間が入ってきたら、「うわ、あの人どの時代の人?」と言われるだろう。でも、ちょっと臭くてもイケてるTシャツを着て、肩にバッグをシュッとかけた若者が入ってくれば、「あいつは未来を知っている」とみんな思うはずだ。今こそ大きなチャンスが待っている。

それと、もう一つクリエイティブの人たちに伝えたいことがある。僕は、Creative people have got to take more control.(クリエイティブの人間こそがもっと物事をコントロールしていくべきだ)と考える。クリエイティブが前に出ていって「僕は、あるいは私は、このことを強く信じている。だから自分だけの独自のアイディアで、こういったことを通じて世の中を動かしたいんだ」と、そういった態度をもってほしい。僕はそれを、もっともっとみたいんだ。