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課題解決型瞬間風速オタク
著者 / 話者

課題解決型瞬間風速オタク

テクニカルディレクター プログラマー Saqoosha

Google「World Wide Maze」、SOURのPV「映し鏡」、Yahoo! JAPAN「さわれる検索」などの広告キャンペーンに携わり、カンヌ国際広告祭金賞をはじめ、東京 TDC 賞、NY ADC 金賞、TIAA グランプリ、文化庁メディア芸術祭大賞などを受賞した、広告業界を代表するテクニカルディレクターでもありながら、ブラウザ上でARを実現するFLARToolKitのFlash版などの開発者としても活躍し、マックユーザー向けの2ちゃんねる専用ブラウザ「マカー用。」の「作者」という意味の名前を持つSaqoosha氏。彼自身のモノヅクリについて、イチ「作者」としての考えを語ってもらった。

僕自身はプログラマーであり、「問題解決」を前提に仕事をする人間です。僕自身が専門的な「モノ論」みたいなことは、まったく考えたことはありません。なのに、こうして、僕の作品がモノとして浮かび上がっているというのは、世の中が問題解決に求めている自然な流れなのかもしれません。

プログラマーでありながらも、モノヅクリそのものは、昔から好きなんです。小っちゃいころから、ほんとに折り紙やペーパークラフトが大好きだったし、モノをつくること自体は、すごい好きなんです。それで、いま、自分自身のつくる「モノ」がソフトウェアプログラミングになってるのは、たぶん一番自分にとって動かしやすいモノや環境がそこにあったからだけだと思うんです。

機械で何かを作った経験で言えば、小学4年のときに、父のワープロを使って学校の音楽祭のプログラムをつくって、自分の母親を招待してました。プログラムといっても、曲目とかが書いてあるプログラムの方でしたが。パソコンでは、中学のとき、FM TOWNSを買ってもらったのが最初です。そして、持ち運びのできる富士通のOASYS Pocket3も買ってもらいました。そのOASYS Pocketの上で、かろうじてMS-DOSが動くことがわかっていたので、テトリスのプログラムをFM TOWNSで書いて、メモリーカードのようなものをOASYS Pocket3に挿して、学校に持っていっていました。画面の右半分と左半分に分かれて、対戦型。対戦型っていっても、2人用なのに、画面1個に、キーボードも1個でしたが。

2000年ごろ、マカー用。っていう2ちゃんねる専用のブラウザを作ったんです。2ちゃんねるって、文字ばっかりですごく見づらい。でも、当時Macだと専用ブラウザがなかったので、自分で作りました。実際、未だにマカー用。のことを覚えていてくれる人もいるので、当時から結構反響はあったのですが、ユーザーから機能追加の要望があっても追加しませんでした。自分が欲しいという機能はすぐに付けますが、一旦自分が満足したら、もうそこで進化はとまるんです。最初に作ってから7、8年して、僕は、もう既に2ちゃんねるはほぼ見なくなっていたので、マカー用。が必要ではなくなって、更新はもう完全にとまっています。実は、「さくーしゃ」という名前は、この当時ついたあだ名なんです。マカー用。の「作者」って意味。だから僕が自分でつけたわけではないんです。

一貫して持っている感覚なのですが、一番楽しい瞬間って、課題を与えられて、その解決方法について考える瞬間なんです。その後、解決方法がみえてから、ある程度つくるところまでであれば、まあまあ楽しいんですが、最後の残り20%の精度を上げる段階までくると途中で飽きちゃうのかも。例えば、僕がテクニカルディレクターとしてかかわった、Yahoo! JAPANの「さわれる検索」のときであれば、僕は、筐体そのものをつくって、基本的には3Dプリンターのソフトウェア、制御ソフトウェアを書きました。そのとき、どういうプリンターを使って、どういうソフトウェアを書けば「さわれる検索」が実現できるかを四方八方から考え尽くし、ソフトウェアを使いたおして、「これならいけるんじゃないかな?」となったとき、その瞬間が一番おもしろかったです。

「World Wide Maze Moving Model」はもともと「World Wide Maze」という、株式会社PARTYのチームとやった仕事がベースになっています。ウェブサイトのURLを入力すると、そこから3Dの立体迷路を生成されて、その迷路をスマートフォンのコントローラーを使ってクリアするゲームでした。これはウェブサイトとモバイルだけで遊ぶゲームだったのですが、まずはこれを、ヘッドマウントディスプレイを使って、ヘルメットをコントローラーにして、自分がその迷路の中に入り込んだように遊べるものにしました。さらにその後、ゲーム内の迷路ステージそのものを、ゲームを遊んでる人の横に、3Dプリンターで実際に出力して、ゲーム内の動きと全く連動する形で傾いたりするようにしました。それが「World Wide Maze Moving Model」です。会社に別の仕事で使った3Dプリンターがあったので、これでつくったら、迷路のステージを簡単につくれるのでは、と思ってつくりました。使ってみて思いましたが、3Dプリンターは、技術はすごいおもしろいです。まず、見ていておもしろいですし、自分も何かつくってみようかなと思います。でも、じゃあ何をつくるっていったときに、別につくりたいものはそんなにないんですよね。

でも、言われたものだけをつくるのは、やっぱり抵抗感が強いです。そこに、自分がこうしようと思ったっていう何かがないと駄目なんです。自分で何かつくりたい。ただ、初期値は誰かに入れてほしいということかもしれない。問題解決型なんだけど、一度始めると一気にのめり込んじゃうオタク、それが僕なんですね。

正直に言うと、僕は、与えられる課題がなかったら、何もつくってないと思います。自ら湧き出る何かがそんなにあるわけではないですし、アーティストでは全然ないだろうなとは思ってます。でも、ディレクションだけにはしたくないと思っているし、触感の残るものを作りたいという感覚がある。テクニカルディレクターとか、インタラクティブなんちゃらとか、業界受けが良さそうな肩書きはいろいろあるけれど、僕の名刺には「プログラマー」という「作り手の肩書き」を外さないでおこうと思っています。