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ものはひとが作るという当たり前のこと
著者 / 話者

ものはひとが作るという当たり前のこと

府中刑務所 処遇部 首席矯正処遇官 小松裕和

刑務所の中で1日8時間、懲役刑である「刑務作業」として、ものづくりに向き合う受刑者が全国に約5万2000人(平成25年12月末現在)いる。そのうち約2,500人が収容されている日本最大の刑務所である府中刑務所で、木工、革工、印刷、洋裁、金属加工、自動車整備などの刑務作業を統轄する首席矯正処遇官、小松裕和氏。受刑者の「教育」「生産管理」「商品化」という異なる3つを同時に、どのように成り立たせているのか? 塀の中だからこそ見えてくる、ものづくりの本質に迫る。

刑務作業で作られるありとあらゆる製品には、民間企業の下請けとして労働力だけを提供して生産する製品と、私たち独自に企画して生産するオリジナルの製品があります。後者に関しては、公益財団法人矯正協会が運営するCAPIC(キャピック:コレクショナル・アソシエーション・プリズン・インダストリー・コーオペレーション)ブランドの商品として、公式ホームページをはじめ、東京・中野区にある直営店(キャピックショップ)、各刑務所の展示場、年に数回開催される矯正展・展示即売会で販売されています。

刑務所も世の中の縮図ですから、老若男女さまざまな人がいます。一般企業ですと、仕事に応じて人を集めるわけですが、刑務作業は全くその逆。かれら全てに作業をしてもらう必要がありますので、多種多様な仕事をつくる、社会から受注するということが、我々作業部門の職員の大切な役目の一つです。例えば、元気のある働き盛りの人は、機械作業もできますし、重い金槌を持って鉄を叩くこともできますが、年配の方や体の弱い受刑者には、とてもそんな仕事に就けることはできない。そういう人には裁縫作業や紙の作業を用意する。優れた技能を持つ人もいれば、初心者もいる。数千種類もある刑務所製品のバラエティが、そのまま受刑者のバラエティをあらわしています。

受注に際しては、最低賃金などをベースに協議して適正な価格を決定し、発注者から国に賃金を支払って頂きます。刑務作業におけるものづくりの第一の目的は、当然、受刑者の改善更生です。しかし、作られる製品はあくまでも商品にしていく。本当のものを作らなければ「ごっこ」になってしまう。だから、民間企業と同様に厳しい品質管理を行い、産業として成り立たせる必要がある。刑務作業に協力いただいている民間企業は約2,220社(平成25年4月現在)にも及び、おかげさまで、製品のクオリティにもご満足いただいております。

ものづくりは、どういう業種であれ、どういう製品であれ、不良品をどうやって低減させていくかという生産管理の世界。それは私たちも一緒です。歩留まりを良くし、リードタイムを短縮するための作業工程を目指す。従事する人のタイプやレベルに合わせて、無理のない効率的な工程に分けていく。受刑者は社会で犯罪を犯したり、社会に適応できなかったり、個性や能力に偏りが大きい傾向があります。現実問題として、忍耐力がない人や、感情がすぐ爆発しやすい人、人とコミュニケーションがとれない人もいます。例えば、私が現場の技官時代に受け持っていた自動車部品のメーカーさんの仕事で、作業意欲が高くない受刑者がいました。彼には本当は能力があるということは分かっていたんですが、仕事がおもしろくないようで、作業をサボりがちでした。地道に指導をしていたんですが、ある日、コツをつかんだ瞬間があった。「今の動きだよ。抜群!」って、褒めたのです。彼は、それからは一気に技術を磨き上げて、工場でも有数の生産ラインを支えていってくれたのですが、そういう「ものづくり」と「人」が交差する瞬間が一番感動します。

毎日コツコツ作業してきたものが製品として完成して、一般の方々に「実際に」使っていただける。このことが彼らにとって非常に励みになる。作った製品が完売になると、すぐに担当技官から受刑者たちに伝えます。「全部完売したぞ」というニュースが、所内での「作りたい」という活気につながる。最近では、幼稚園の椅子やテーブルなども製作しています。無邪気な子供が、自分たちの作っているものを使ってくれるんだと思うと、また一段と作業に身が入る。全国の刑務所を管轄する8つの矯正管区では、新製品開発のコンクールも開催しています。府中の製品ですと、鞄の底にSuicaを入れられる便利な革製トートバッグが矯正協会の理事長賞を、今年は木工部門で開発した洋箪笥が審査員特別賞を頂きました。富山刑務所であれば、井波彫刻の南部白雲先生からご指導を頂きながら、御神輿(おみこし)を作っていたり、新潟刑務所では合鹿椀、秋田刑務所では桐箪笥、繊維産業の盛んな堺市にある大阪刑務所ですと段通(ペルシャ絨毯)まで作っています。伝統工芸の分野では後継者不足や市場の縮小などの問題もあり、技能の継承という役割も、刑務作業が担わせていただくこともあります。

出所後の社会復帰に向けて、生産技術取得訓練も個別に行っています。例えば、木工ですと、まず始めに木材の磨きをしてもらう。磨きというのは簡単そうに見えますけど、実はすごく難しい。磨きが悪いと、塗装したときにムラが出る。誰にでもできる作業ですが、磨き過ぎると今度は不良になる。その感性を身につけさせるんです。そして指物工の基本中の基本である、ノミとノコギリとカンナの使い方。ホゾと組み手を使った木工の基本を教わります。上級になりますと、パース図面の書き方もCADで教えますし、最新のNC加工を用いた工作機械の使い方も教えます。こうして習得した技能を出所後に職業として極めてもらい、刑務所にはもう二度と戻って来ないようにと願っています。

塀の中で日々おこなわれている、受刑者たちのものづくり。彼らの労働力が、みなさんの身近な製品の中で活かされていることが、彼らの励みとなり、更生の支援になっています。塀の中にいても、受刑者の更生する気持ちは、モノを通じて、社会とつながっているんです。