タイトル
GREEN SCHOOL TVゲームを超えて子供を魅了する学校

「Green School」。インドネシア・バリ島にあるインターナショナルスクールである。現在、約40カ国にも及ぶ様々な国から、プレ幼稚園~高校生まで250名以上の学生が学んでいるという。高い水準の基礎教育を施しつつ、独自のカリキュラムにより、持続可能な社会を率いる次世代のリーダーの育成を目標としている。美しく、かつサステナブルな環境の中で、子供たちはどのように学び、どのように育っていこうとしているのか。パートナーのシンシア・ハーディ氏とともにGreen Schoolを創設した、ジョン・ハーディ氏にお話を伺った。

「グリーンリーダー」を育てたい

この学校には約40もの国から学びにきた子供たちがいます。入学者枠の2割は、寄附による奨学金制度を利用して通う地元バリの子供たちのためのものです。この学校に居る子供たちはいわゆる「普通」ではありません。それは私たちの教育の目標が、1万人の子供に対してただ大きくすることではなく、次世代をつくる戦略家を育てることにあるからです。その戦略家とは、企業活動を率いる戦略家でもなければ、ましてや、軍艦を率いる戦略家でもありません。環境問題に対しての答えをもち、行動を起こす戦略家です。彼らを私たちはグリーンリーダーと呼んでいます。グリーンリーダーとは、いま私たちが行っていることが持続可能でないことを理解し、その問題点を見いだす人であり、悪しき決定から我々を遠ざけてくれる人です。グリーンリーダーを育てること、これが我々の目的です。子供たちの故郷である、全ての国において、彼らのような人材が、まさに必要とされているのです。

学びの旅をあたえる

いま、8年生の子供が熱中している「バンブーカー」というプロジェクトがあります。彼らはそのバンブーカーを作ろうとする過程で、まず物理や組み立ての知識が必要であることを知りました。そして今度は、バッテリーのために化学や材料のことを知らなければならないと気付き、物理や化学の授業に彼独自の質問をたくさん抱えてやってくるようになりました。子供たちは何でだろう?なぜだろう?とたくさんの問いを自ら作り出しているのです。

旅に行くのに冷蔵庫を持っていく人なんかいませんよね。水なのか食料なのか、あるいはもっと靴下が必要かな、とか、私たちはその旅に必要なものを選んで持っていくわけです。私たちは子供に対して学びの旅を提供しているのです。そして子供たちはその旅のなかで自分にとって必要なものを、自ら考え、選び取っていくのです。バンブーカーを作るためにはバッテリーが必要で、そのためには化学の知識が必要だと気付き、そして自ら進んでそれらを学び吸収していく。これがGreenSchoolの子供たちの学び方なのです。

もうひとつこんなことがありました。あるとき、子供がiPadを買って欲しいと言ってきたことがありました。私は、それを買うためにはお金が必要なわけだが、どこかにお金のなる木でもあるのかい?と問い返しました。その子供たちは、それでもiPadが欲しい。自分たちで何とかするしかないのだと気づき、さっそく行動に移しました。まずは自分たちでフリーザーを自転車に取り付け、アイスクリームカートを作りました。そして市街地にジェラートを作っているイタリア人がいたのですが、その彼からアイスクリームを仕入れて運び、週に1度ほど、学校内で売って歩いたのです。1ドルで仕入れて2ドルで売っていました。そうやって、必要なものを手に入れるために、実際に自ら考え、行動を起こしたのです。彼らは11、12歳の子供たちですが、iPadを手に入れるために自らビジネスを考えついたわけです。みんなにアイスクリームを売ったお金で手に入れたiPadは、みんなで共有できるようにライブラリーに置いてあります。普通の学校であれば、「iPadはないの?」「そんなものはありません」の二言で会話が終了していたことでしょうが、ここでは彼らが彼らの生き方を決めることができるのです。

科学の基礎と芸術の基礎

Green Schoolのカリキュラムには3つの柱があります。1つは、数学や理科など自然科学系の必須科目。2つめは実地を通じて環境問題やサステナビリティについて学ぶグリーンスタディーズ。そして3つめはアートや工芸、音楽、演劇といった様々な創作活動を通じて学ぶクリエイティブアーツです。数理的な考え方は、世界のどこに出ても使える基本的でもっとも重要な思考です。ここはあらゆる活動のベースとなって後々の彼らの活躍を支えてくれることでしょう。また、このような豊かな自然にあふれた環境だからこそコンピューターなど先進技術を使った授業も積極的に取り入れています。グリーンスタディーズでは、自然科学的な知識と実際の地球や生活とのかかわりを学ぶことができます。そして自己表現。芸術や音楽などの情操教育を通じて、なにをやるにしても自分が先頭にたって、考えを相手に伝える技術を身につけてほしい。

私たちは、Green Schoolで学びの新たなパラダイムを築きたいと思っています。子供たちには身体的な感受性を育み、エモーショナルな直感を磨いてほしいと考えています。

デジタルを凌駕する原体験の豊かさ

子供がゲームやネット通信のとりこになってしまっているというのは、不毛な環境で陥りがちな罠ですね。デジタルエンターテインメントの代わりとなる実生活の環境からの刺激が面白くなければ、ゲームもiPadもコンピューターもそれ自体が「現実」になってしまうのです。Green Schoolでは、コンピューターやiPadは、ただのツールに過ぎません。Green Schoolの子供たちもゲームをしますよ。しかしそれが彼らにとっての「現実」になってしまうことはありません。なぜなら、彼らは豊かな環境の中におかれ、ゲームから与えられる刺激をはるかに上回る豊かな原体験に常に触れているからです。決してデジタルデバイスが悪いということではありません。肝心なのは、手段と目的を間違えないことです。

未来の教育のあり方について

地球環境の変化が激しいので、50年先のことまでは見通せませんが、Googleのようなものが情報のポータルとして勝ち残り、情報を本ではなくインターネットから手に入れることが当然の世界になるでしょう。そうなってくると、教師には学びのファシリテーターとしての能力が求められることになるでしょう。教師は情報をどのように見つけ、それをどう使うか手助けすることを任務とします。そして子供たちにインスピレーションを与える、という重要な役割を担うことになるでしょう。

Green Schoolが開校したのは2008年。まだ若い学校である。ゆえにここで育った子供たちが世界で活躍し始めるのは、まだ少し先の話になるだろう。しかしながら、このようにきわめて豊かな学びの経験を経てきた子供たちには、私たちはいやが上にも期待をしてしまう。強い原体験と自由な思想をもって育ってくるであろうニュー・グリーン・リーダーたち。私たちが疑わずに暮らしているこの社会のありようを、彼らはどう受け止めるのだろうか。ぜひとも聞いてみたいものだ。次の時代をつくる人間をつくること。これがハーディ夫妻にとっての「未来のつくり方」なのだ。