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アートとエンジニアリングを組み合わせた視点の実験

アートとエンジニアリングを組み合わせた視点の実験

INTERVIEW
ベルンハルト・エドマイヤー|[地質学者・写真家]

地質学者でありながら、写真の世界に転向したドイツ人写真家 ベルンハルト・エドマイヤー氏。豊富な地質学に関する知識を用いながら、自然によって生み出される地球上の驚くべき形態や色彩の美しさに迫り、地質学的視点とアート的視点を融合した作品を数多く生み出している。エドマイヤー氏は、上空からの俯瞰的視点から、人の手が及んでいないプリミティブな自然の景観を捉えることに喜びを見出すという。エドマイヤー氏の制作方法と制作意欲について伺うべく、メールインタビューを敢行した。

編集部|なぜ地質学に興味を持ったのですか。
エドマイヤー|初めて高校で地理の授業を受けた頃から、地球の表面を形成する地質的なプロセスに興味が湧いた気がします。大学で土木学の授業を受けていた中で地質科学とは何度も接触があった為、結果的には地質学も学ぶことになりました。

編集部|どのようなきっかけで地球を俯瞰した時に立ち現われるパターンや色、造形に注目するに至ったのでしょうか。
エドマイヤー|私にとっては、俯瞰の空撮から捉えられるかたちが最高のモチーフの元です。特に私が一番気に入っているモチーフは、地理的な構造が大変大きく、かなり遠い距離から撮影しなければなりません。最も理想的な構成で表現し、(地球の)現象を捉える事が出来るのは実に俯瞰しかないでしょう。
もともと私の写真は(地表における)地質学的なプロセスを記録する為のものでした。もちろん、その芸術性にはずっと着目していました。ここ数年私の作品は物理的な記録と客観的な現象や抽象性との相互効果へと変化しており、だんだん後者(現象と抽象的な表現)を強調するようになってきました。
また、芸術の考え方は、自然の中の面白い構造だったり、幾何学的なかたち、色の構成などに対して私を敏感にしてくれると同時に、動きとスリルのあるイメージをどう作るか(構築するか)を教えてくれます。私にとって芸術とは、「視覚の学校」であり、「視覚の学問」です。

編集部|こうした作品をつくりたいと思う欲望の源泉はなんでしょう?
エドマイヤー|多くの人は周りにある世界を人間中心的な視点でとらえますし、地球自体を生命のない物質の蓄積のようなものと思っています。私は地質学者として、あるいは、もしかすると芸術家のビジョンとエンジニア(技術者)の精密さを通して、地球を「写真の旅」というかたちで披露していけたらと考えています。

編集部|撮影の対象となるスポットとは、どのようにして巡り合うのでしょうか。
エドマイヤー|基本は私が出す本や展示の企画によって、どこの何をフィーチャーするか、焦点を決めます。やはり写真作品に不可欠なのは地質学者としての経験です。この知識をもとにどこに適切なロケーションがあるかわかりますし、地理的、地質学的特徴がどうやって造られているのか、その過程を理解しています。

編集部|撮影対象となる場所と巡り合った時、どのような感情が湧き起こるのでしょうか? また、実際に撮っている時は、どういった感情で撮影しているのですか。
エドマイヤー|私が感情や心の状態について語るのは、適切ではないかもしれません。私は内向的な性格で、感情を出す事はあまりしない、典型的なドイツ人です。ただ、自然の力には深い尊敬や畏敬の念を抱き、純粋(汚されていない)な景色の素晴らしさに魅了されます。一方、現実主義者でもあるので、しっかり画像を収めるために写真家としての仕事に集中してしまいます。

編集部|どのように撮影し、作品として仕立てていくのですか。
エドマイヤー|私が取る空撮には綿密な計画と準備が求められます。例えば私のパートナーであり、科学ジャーナリストであり、写真集の文章を書いているアンジェリカ・ユングヒュエッティと一緒にネットで大量のリサーチ(google Earthも重宝)をして、計画している地域の衛星写真を検証したり、空撮に必要な飛行許可を取ったりと実際の撮影に入るまでには何カ月もリサーチに費やさなければいけません。
特に地質学的な作品の場合は、「適切な」モチーフを見つける為に細心の調査を行います。そのため、空撮の画像はほとんどが計画されており、ランダムで撮影する事はまずありません。選択したモチーフをどのように撮るかというイメージはすでに何らかのサンプル写真もあるため、何百枚も撮る必要はありませんし、一番良い物を選ぶと言う作業もありません。

編集部|作品をつくる際に、心がけていることはなんでしょう?
エドマイヤー|基本的に科学者と芸術家の意図を組み合せる実験をするのが好きなんです。だから私の作品は純粋な記録と抽象的な写真との相互関係でもあり、観る側に様々な視点や幅広い解釈を提供したいと思っています。そして本当にいい仕事(作品)をした時には、私の写真を通して地球の多様性を新たなかたちで見たり、芸術との相関関係を同時に発見したり出来るのではないかと考えています。

編集部|作品をつくる上での苦労(エピソード)について教えてください。
エドマイヤー|いろいろなパイロットとさまざまな飛行機に乗って遠隔地へ行くため、ドキドキする瞬間が多いのは確かです。ハワイ島で噴火しているキラウエア火山の写真を撮りに行った時の話ですが、その時私が集中して撮りたかったのはスカイライト(固まった溶岩が崩れてできる天窓)や溶岩洞でした。ハワイ島に到着する数日前に火山の斜面にあった溶岩が崩壊したため、新しく出来た溶岩洞を撮影出来る確率が非常に高かったので、ヘリをチャーターして崩壊した場所へ出来るだけ近付こうとしました。その場所にたどり着くと熱い溶岩と海水が激しく反応して蒸気とガスで覆われていました。でも、ベトナム戦争を経験していたパイロットのザックは昔を思い出したのかどんどん近寄って行きました。するとヘリの羽根が蒸気を飛ばし、驚く事に完璧な円のかたちをした溶岩洞が現れ、そこから赤く燃え上がる溶岩が海へと落ちる瞬間をとらえることが出来たのです。恐らく一生に一度しか撮ることが出来ない貴重な一枚だったと思います。

編集部|作品を通して伝えたいと思うことはなんでしょうか。
エドマイヤー|私の写真企画は地球の地質学的プロセスへの窓口を提供する為にあると思っています。我々の想像の中では地球や地表は永遠に存在し、あまり変化していないもののように思われがちですが、実際は反対です。無限のプロセスで永続的に地球の表面や内部を再形成しています。ですが、それを直接目で確認できるものはさほどありません。私は地球の亀裂や岩石層、浸食模様など、地質学的なプロセスをビジュアル化する事に専念してきました。今取り掛かっている“地球の色”という企画では、カラーパレットの色の本質を見せてくれる場所を特に探しました。ほとんどは自然に造られたものですが、次第に人類の飽くなき欲望のために壊され、最終的に変わって消えてしまう場所が殆どです。

編集部|エドマイヤーさんにとって、これまでの体験の中でもっとも「言葉にならない感動」はどのような時だったのですか? 
エドマイヤー|撮影中、私の気持ちや感情は曖昧かもしれません。写真飛行は正直大きなストレスで、全神経を集中しなければなりません。知らない場所に自分をまず馴らし、期待している構造や色みの場所を見つけ、パイロットとコーディネートし、悪条件下でカメラの操作や光の計算もしなければならないからです。ほとんどの場合は寒く、風も強いのに加え、扉も外しているため騒音がひどい状態です。そして、忘れてはいけないお金の工面のことも頭にまとわりつきます。脳の中では常に計算機がはじかれ、特にヘリのチャーター費は気になります。しかし、当初の緊張が落ち着き、熟練したパイロットがまるで無重力のような感覚にしてくれた時、“鷲の様に飛んでいる”そんな荘厳な気持ちになります。そして多くの場合上空から損なわれていない自然を目の当たりにすると息をのみます。それに圧倒され、この壮大さの中で人間がどれだけちっぽけで無意味なんだろうと痛感させられるのです。