タイトル
あなたのアイディアは、最初の8秒で、観る人の心をつかめるか?
著者 / 話者

ルネ・レクトマン
Rene Rechtman [CEO, BeON / SVP, AOL Networks]

尾高健
Odaka Ken

あなたのアイディアは、最初の8秒で、観る人の心をつかめるか?
広告クリエイティブの効果が「みえる化」され、粗悪なコンテンツが淘汰される近未来とは。

フランス、カンヌ。陽の傾きかけた午後、「広告の効果を測定する技術」を持っている企業の代表にインタビューするため、私は道を急いだ。

広告の効果を測定する技術といわれても別段耳に新しいものではないが、Be ON社にインタビューしようと思いたったのは、二日前に彼らがカンヌで行ったセミナーを聴講し、そこで紹介されていた特殊な先端技術に好奇心を刺激されたからだ。あまたある技術の中でも、彼らの持つRealeyesというシステムは、「人の表情の分析をもとに感情を可視化していく、世界でも有数の技術」で、世界最大級のネット企業であるAOL社が採用するほどのものだという。

広告が人の感情に与える影響を可視化し、広告・ストーリーというアウトプットに反映させる技術を研究する人物に見えている広告の未来とは。Be ONのCEOであり、AOLインターナショナルの上席副社長であるルネ・レクトマン氏は、カンヌの浜辺を臨むホテル・マジェスティックのバルコニーに優雅に座り、落ち着いた口調で話し始めた。

■広告・マーケティング業界の今をどう見るか?

現在の広告・マーケティング産業を見ていて思うことがある。今、私たちはおそらく広告業界におけるかつてない最もドラマティックな変化を見ている、そしてテクノロジーはその変化の中でも大きな存在だ、と。きっと日本にもあると思うが、様々な媒体の広告枠を効率的に買うためのプログラムは、広告ビジネスを完全に根本から変えるもので、世界中のいたるところでそれはみられる。いまやデジタル広告を含めた全ての広告のうち5~-25%は、プログラミングされたDSP(デジタル信号処理)やRTB(自動入札システム)など、供給側のプラットフォームによる電算処理能力を持つ購入システムによって所有されている。こうした傾向はより目覚ましいものになるだろう。

広告業界は大きく二つの世界に分かれるだろう。一つは、テクノロジーがメディアの購入を担うようになる。もう一つは、とてもハイエンドなクリエイティブの部分をクリエイターの人間が担当する。その中間にあるものは全て消滅するだろう。

クリエイティブのプロセスにおいても、テクノロジーは劇的な変化をもたらすだろう。セミナーで話したことは、その第一歩の部分だ。だが、私たちは顔の動きを認識する技術によってそのクリエイティブの質を評価できる。そのクリエイティブは感情に訴えるだけの資質をもっているのかどうか、ということを。

数年後に何ができるようになっているかといえば、コンテンツやクリエイティブの作品が感情へ与える影響を、その場で変更・調整できるようになる。例えば、対象となる視聴者が誰か分かれば、コンテンツだろうが、広告だろうが、好みに合わせたストーリーを異なる方法で伝えることができる。

もうひとつは、全てがウェアラブルコンピューターになるであろうということ。私や多くの人が、NIKEやJayBirdのアームバンドを身につけている。でもこれはまだ始まりに過ぎない。今後10年以内に、全てがGoogle Glassになるような変化が訪れると思う。

■今年のカンヌの印象

私の今年のカンヌの印象を一言で言うなら、まず面白かった。今年のカンヌは、全て「創造」に関するものであったと感じる。それはストーリーテリングや、クリエイティブのプロセスといったものだった。これらは、今やテクノロジーなしには語れないものだと思っている。だが今のところ、クリエイティブのプロセスに関わる技術は少なすぎるとも思う。

今はまだ第一歩だ。来年のカンヌや、その翌年、クリエイティブのプロセスについても、もっとテクノロジーが語られるだろう。私たちが人類として知っている多くのことがある。あなたにクリエイティブの才能があるなら、何が良くて・何がそうでないかは判断できるだろう。しかし、それをどう立証するのか。あなたにとっていいと感じる作品は、あなた自身にとっては、いい作品であっても、他の人々にはそうでないこともあるのでは?そう考えると、その善し悪しを測定できるテクノロジーは、クリエイティブのプロセスにおいて、今後大きな位置を占めると思うんだ。

■ 自社のテクノロジーについて

わが社の技術、Realeyes について話そう。
これは一言でいえば、人間の表情の変化、特に目の動きから、感情の変化を読み取る技術だ。人の感情の動きを可視化する技術、とでもいおうか。

表情の分析をはじめたのは、第一には、利用できる技術が我々にあったということ。今、私たちは誰もがカメラ付きデヴァイスを持っている。私たちは、目の動きや表情を追跡する技術を研究した。Realeyesは、疑いなく、世界で最も先進的なものだ。だから私たちは継続的に、クライアントに対し、よりよいストーリーテラーであり、クリエイティブを実現できる存在になるため、科学の力を使って立証し、働きかけていく。あなたが私のクライアントだとしよう。例えば世界的に有名な電子機器メーカーに所属しているとして、クリエイティブの作品を思いついて持ってくる。私は、「それは酷い作品だ」と答え、彼らは腹を立てる。だがここでテクノロジーが登場する。人々の注意を最初の8秒で必ずとらえなければならない。さもないと、物語は最後まで見てもらえない。あなたが商品を見せても、そこには誰もいない。これらを科学が証明するから、人々は耳を傾ける。私たちの技術Realeyesはうってつけだった。

第二に、クライアントのところに行って、効果を立証できること。これは、あなたのコンテンツがたくさんシェアされたり、「いいね!」がついたり、ツイートされたり、といったことに留まらない。コンテンツを見た人の90%がとても心を動かされた、とか、ハッピーになった、といったことが立証できるんだ。

これら二つが、主な理由。今後の希望としては、Realeyesのようなテクノロジーによって、コンテンツの語り方を即座に変えられるようになればいいなと思っている。あなたは幸福な結末が好きかも知れないし、逆に悲しい結末や、ロマンティックな結末の方が好みである可能性だってある。ならば物語の結末を随時変えればいい。技術によってそれが可能になるんだ。

■今の技術で、感情をどこまでとらえられるのか?

感情をどこまでとらえられるか、日々研究している。喜び、恐れ、驚きなどは解析可能だ。今後は「納得」という表情を認識できるようになればいいと思う。
私たちは技術を用いて、広告表現の効果を測る。attraction(誘引)、retention(関心の継続)、engagement(関与)、impact(印象)といった4つの要素について、とてもポジティブな感情の体験が確認される。 これによって、ブランドへの属性や魅力についての理解を深めることができる。今は様々な技術を組み合わせている。

■自分たちの感情を分析するようなテクノロジーに、脅威を感じる人たちもいるのでは?

広告やマーケティング業界に属さない一般の人々の中には、ビッグデータなどといった企業が個人の行動に関するデータを収集することに対し好意的に思わない人もいる。そういった中で、感情を計測するテクノロジーはどのように受け入れられるのか。

例えばロンドンのスーパーに行けば、小売業界がいかにデータを活用して顧客を熟知し、販促につなげているかが分かる。

しかしわれわれがRealeyesを用いて分析を行う対象は、調査サンプルだけだ。無作為に調査するようなことは決してしない。パネルグループだけを対象とし、それ以外のシーンで調査を行うことは決してない。

広告・マーケティング産業は、データの取り扱いには細心の注意を払う必要があると思う。もしこの業界の事情に通じていれば、方々から収集される膨大なデータの99%は使い物にならないことは周知の事実だが、一般の人はわからないし、疑念を抱く。だからこそ、この産業の人間にはデータの悪用を未然に防ぐ強い規制が必要だ。

■技術がどんどん進化する先で、クリエイティブの未来はどうなるのか?

Realeyes はよくできたシステムで、人々がどんなクリエイティブに反応するのか把握できる。
これらのことが調べられるようになった今、私の頭を次のことがよぎる。クリエイティブはどうなっていくのか。どんなふうに新しいアイディアは創られるのか。「感動を生みだす方程式」といった分析を凝縮したものか。あるいは、これまでクリエイター達が行ってきたような作業は依然として残っていくのか。

雑誌「広告」は、アートと科学についての雑誌ということだが、今日アーティストの多くは、創作を始める前にまずデータを集める。未来も、アーティストの創作力と、データという科学が融合するものになるだろう。人々の会話やアイディア作りを促進する様々なプラットフォームが生まれていることは、とても良い傾向だと思う。あなたが東京にいて、私がロンドンにいて、もう一人がニューヨークにいても、一つの物語を創れる時代だ。テクノロジーがそれを可能にしている。将来は、技術革新と私たちの思考がさらに統合されるだろう。

従来のクリエイター達も、テクノロジーを使わざるをえなくなる。誰もテクノロジーなしに暮らすことはできなくなる。インターネットで検索するという日常の行為でさえ、テクノロジーあってのものだ。あなたの友人にアーティストがいるか知らないが、彼らは単に考え、空を仰いで素晴らしい創作をするだろうか?彼らももちろん調べたり、文献を読んだりするだろう。出かけたり、何かを鑑賞したりするだろう。美術館に行って、そのあとでネットで検索をして調べ物をし、それらを組み合わせて、良いアイディアを作り上げるのではないだろうか。技術はその過程を加速させるということだ。

■5年先や10年先は、どんな時代になるのか?

セミナーでは時代を区切って整理・分析して講演した。これからの5年後、10年後は、どんな時代だろうか。

いくつか要素があげられるが、まず技術の向上でブロードバンドが広がる。デバイス・ウェラブルコンピュータ、例えばコンピュータを内蔵した眼鏡といったようなものが増える。そしてあなたの健康や行動を計測し、「そろそろヨガの時間だよ!」と教えるとか、そういうことが現実のものとなるのだろう。
今もすでに語られているが、真のグローバリゼーションが起こる。中国で起こることが、日本でも、デンマークでも、ロンドンでも起こるようになる。技術はその大きなドライバーとなるべく、さらに安くなり、もっと利用しやすくなる。

そして、健康と技術に関するあらゆるものの存在感は、増幅するだろう。私たちは、体に関するあらゆるものを、技術によって課金するようになるだろう。高血圧や心臓の疾患も、計測できるようになるだろう。そして、それらは爆発的に広がるだろう。ナイキのFuelbandは始まりに過ぎない。それは楽しく、ソーシャルで、ゲーム仕立てになる。それは大変な資産になり、爆発的に広がる。

さらに、知能を持った家や、自動車が登場するだろう。世界中で交通事故により多くの命が奪われているが、自動車同士が知能を持てば、事故は起こらない。こうしたことが、今後5年から10年で起こるだろう。

現行の技術や試作品などで私が何に注目しているか、それについて詳しくは述べないけれど、二つある。一つはナノテクノロジー。人類にとって偉大なものになるだろう。様々な人を楽しませるようになる。二つ目は、ウェアラブルコンピューター。過去に人々が一笑に付したようなものが巨大な存在になる。Google Glassを笑った人たちもいたが。人の生活に必要なもの~食べ物や、屋根や、そして愛といったものは、これからも大切なままだろうけど、もしかしたら技術で人の頭に屋根をつけられるようになるかもしれない。