タイトル
正しい恋愛なんてつまらない
著者 / 話者

Amourを解放してよ、日本人

最近になって「Amour(アムール)」(愛)や「セックス」、「人生を楽しむ」というテーマで意見を求められることがとても多くなりました。いま多くの日本人がルールや正しさにしばられて、Qualité de vie(質の高い人生)を大事にするフランス人から見れば息苦しく見えます。フランス人の大原則はArt de vivre、人生を楽しく美しく生きるということ。そのためにはアムールという要素は欠かせませんし、アムールを豊かにするためには「Séduction(セデュクション)」も重要なファクターです。セデュクションは日本語に訳しにくいのですが、自分の魅力をさりげなくアピールして相手を惹付けること。セクシーなファッションだけでなく、女性らしい仕草だったり、魅惑的な言葉を投げかけたり、あくまでもさりげなく色っぽく誘惑すること。恋愛をゲームのように楽しみ、相手を振り向かせるのです。フランス人はいくつになっても、妻がいても夫がいても、このセデュクションを楽しみます。しかし日本で言う「不倫」とは意味が少し違います。

もちろんフランスにも不倫は昔からあります。中世から近世において貴族の間で結婚とは家同士が決めるもの。その一方で恋愛といえば不倫のようなものでした。「騎士道」にもつながるのですが、戦地に赴く騎士達は妻とは別の貴婦人に愛の言葉を贈り、愛を勝ち取った男は彼女たちと体の関係を持つこともありました。またフランスは伝統的にカトリック教会の権威への反発を背景に「Liberté(リべルテ)」という自由な精神が育ちました。カトリックの教義では不倫は罪でした。自由な恋愛をすることは権力に負けないという意味もあるのです。不倫はアムールの一つの形であって、倫理に対する背徳感を楽しむのではなくもっとポジティブなものなのです。アムールの中には当然セックスという行為も含まれますが、セックスと言うよりも「make love(メイクラヴ)」。フランス人はセックスという言葉をあまり好きではありません。日本人の夫婦には「セックスレス」のカップルが多いそうですがフランスでは考えられません。フランス人にとってアムールとメイクラヴは切り離せないものです。フランス人はメイクラヴが大好きですから。

フランス人が自由な恋愛を楽しめるようになったきっかけは1968年にさかのぼります。当時パリ郊外で学生たちのデモをきっかけに5月革命が起きました。その流れが世界中に広がって労働者や学生達が立ち上がる社会運動になりましたが、フランスのフェミニズム運動もその中で様々な権利を勝ち取りました。男女の雇用機会均等法、避妊や中絶、ピルの服用も合法化され、女性はより自由な性生活を楽しめるようになったのです。女性の社会進出も進み、今やほとんどの女性は男性と同じ様に働いています。仕事でのストレス発散や美と健康のため、また何よりも人生を輝きに満ちたものにするためにフランス人は自然にメイクラヴを楽しみます。信頼し合える相手とスキンシップをして心からリラックスできる気持ちよさ、仕事や日常の些細なことを全部忘れ、情熱的なオーガズムに達した時にバーッと別の世界に行ってしまう感覚。その結果として、もちろん子どももつくります。愛するパートナーと心も体も一つになる行為がメイクラヴでありセックスなのです。

しかし、日本のセックスレスの若者に理由を聞くと「セックスが面倒くさい」と言う。これには全く理解できません。人生の中で一番楽しいことを面倒くさい、時間がないと言って避けることはやはり社会的に問題があるのではないでしょうか。歴史的に見ると特に江戸時代には、日本人はもっと恋愛やメイクラヴを楽しんでいたのに。2004年にイギリスの避妊具メーカーが行った調査によると、調査した45カ国中1位がフランスで年に約137回、日本は年に約45回で最下位でした。その一方でお城のような形をしたラブホテルが日本のあちこちにありますが、あんな建物はフランスにはありません。本当に日本は不思議な国だと思います。

恋愛のフレンチ・パラドックス

日本はルールや常識に縛られすぎているのではないでしょうか。タテ型の社会で組織にもしばられているように思います。日本の男性に仕事を聞くと「〇〇会社に勤めています」とか「会社員です」と答える人がほとんど。それだけ会社の中に埋没してしまっているのでしょう。景気が悪くなり仕事が減っていく経済状況の中で、いまこそ人生のプライオリティを考え直してもよいのではないでしょうか。

2011年3月11日に起きた東日本大震災には私もショックを受け、とてもつらかった記憶があります。一時フランスに帰国し、落ち着いてから日本に戻ってみるとそれほど社会は変化していなかった。もちろん日本人の一人ひとりの意識は変わりつつあるのかもしれませんが。震災を契機に日本の社会が良い方向に少しは変わるかなと期待していたのですが、全然変わってなくてがっかりしています。今変わらないでいつ変わるの? お金やルールだけではなくて、もっと自然な人間関係やアムール、人の温かさや自分らしさを大事にする社会に変わるのかと思っていたのに。放射能の問題にしても、今でもきちんとした説明がなくて分からない。不景気なのだから、もう少しみんなリラックスしてもいいと思います。多くの人が会社や生活を景気の良かった時代に戻したいと願っていますがそれができない。いまは過去に戻すのではなく、状況に合わせて変化しなければならないと思います。

若い人たちも息苦しそうでかわいそうです。私の著書を読んだ読者からよくEメールを頂くのですが、若い女性からのメールが特に多いのです。最近、20代の女性から「私には自由が足りないけれど、ドラのおかげでちょっと別な見方ができて、元気がでました」というメールも頂きました。就活や婚活、出産など日本の若い女性を束縛する社会の常識や制度がまだ残っていますが、そこから動き出そうとする女性も増えています。
「男が稼ぎ、女が家庭を守る」という日本の伝統的な考えがありますが、いまの状況を考えると男性もかわいそうですよね。景気が悪くなって接待費が少なくなりホステス・バーにも行けなくなるし、人員削減でクビになることもある。家庭では奥さんとのアムールもあまりない。女性はまだ男性社会が強いからこそ向き合っていろいろチャレンジをするんじゃないかしら?

一方のフランスでは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれる現象が起きています。フランスでは結婚するカップルが減って仕事をする女性が増えているのに、子供の出生率が急増して2008年には2.02人になり、いまでも2.0人前後を保っているのです。いまではフランス全体で子供の半数以上が結婚していないカップルの子供です。その理由はいくつかあるのですが、大きな理由は社会の変化に即した法律の改正と自由な恋愛観です。

1970年代以降、高まるフェミニズム運動を背景に女性が社会進出し経済力をつけていくと、主婦が家庭から解放され離婚が認められるようになりました。婚外子と嫡子の差別も法的にも撤廃されて、従来の結婚から事実婚を選択する女性が激増したのです。そして1999年には「PACS(Pacte Civil de Solidarité)」、日本語では「連帯市民協約」と訳されますが、18歳以上の成人カップルなら男女問わず結べる契約で、結婚と同等の税控除や財産権が認められました。当初はゲイカップルのために制定された法律でしたが、実際には自由な恋を求める異性同士のカップルに受け入れられ、近い将来には結婚数をPACS(パクス)の契約数が追い越すのではと言われています。

特に現代フランス人の自由な恋愛観を象徴するのが、歴代大統領の恋愛事情です。1981年から1995年まで大統領を務めたミッテランはダブルライフ。夫人の他に愛人がいて、婚外子の娘もいました。大統領就任後にメディアから愛人に関する質問をされた際に答えた「Et alors?」(それで、何か?)という台詞はとても有名です。女性問題についてはそれ以上の騒ぎにはなりませんでしたが、税金を使って隠し子に常時8人のSPを付けて世間の目から隠したことに対してはフランス国民の怒りを買いました。次に大統領になったシラクは本当に女好きで美しい女性を見るとすぐにナンパをすることで有名でした。セックスまでがすごく早くて、彼に付けられたニックネームは「Cinq minutes douche comprise」(シャワー込みで5分間)。サルコジも女性が大好きで、スタミナとエネルギーがすごい。彼はいま実にフランス的な複合家族で、最初の妻マリーとの間に息子が二人、次に再婚したセシリアとの間に息子が一人、現在の妻カーラと再婚して娘が一人。セシリアの連れ子二人とカーラの連れ子が一人いるので、合計7人の子供を世話しています。現大統領のオランドもまた面白いです。2007年のフランス大統領選挙をサルコジと争った女性政治家のセゴレーヌ・ロワイヤルと25年間事実婚関係を続け、4人の子供が生まれました。彼女と別れてからは女性ジャーナリストと事実婚状態です。彼は今まで一度も結婚をしていません。このように、それぞれ大統領の恋愛事情はフランスの恋愛観をよく表しています。

日本で総理大臣が同じことをすると倫理を問われて辞職させられるのでしょうね。しかしフランスでは自由なアムールに生きることこそ倫理なのです。逆に愛人がいなかったら「この人にはセデュクションがない」といって信用されないでしょう。アムールやセックスが倫理に反しない、それフランスが恋愛大国と呼ばれる所以でもあります。

サプライズが恋愛を輝かせる

先日あるテレビ番組で日本とフランスの若い女性に恋愛に関するアンケートを行っていたのですが、その回答結果に驚きました。日本人女性が男性に望むもののトップが「年収」、やっぱりお金なんですね。対してフランス人女性のトップは「サプライズ」。フランス人は恋愛におけるサプライズがとても大好きです。例えば、恋人の部屋で朝遅く起きると、冷蔵庫に「愛してるよ」という愛の言葉が貼ってあったり、デート中に突然「これから二人でローマへ行こう、もうチケットはあるんだ」と言われたり。恋人からのサプライズはまるで映画の主人公になったような高揚感やドキドキ感を与えてくれるものです。愛する女性のために頭をひねってサプライズを用意してくれる男性の情熱がアムールをさらに盛り上げてくれます。

日本の恋愛は予定調和かもしれませんね。恋愛のマニュアルも多くて、何回目のデートでキスをするとか、セックスに至るまでの順番とか、結婚するための婚活マニュアルとか。一番大事なことは自由であることではないでしょうか。自由な生き方と考え方で、もう少しリラックスして人の目や意見を気にしないで、もっと自分らしい生き方をしていいのに。男女の関係をもっと自然に楽しんで欲しいです。例えば、最近は女子会といって女性だけで集まって食事をしたりお酒を飲んだりするそうですが、すこし不自然だと感じます。同性の友達が多いことはすばらしいことですが、フランスでは考えられないことです。レストランに行くと分かりますが、恋人同士でも友達同士でも基本的に男女のカップルを想定していて、アムールに関係のないグループでも必ず男女がミックスしています。日本の男女の関係が不自然なのはロリータ・コンプレックスの影響もあるのかもしれません。多くの男性は若くて頭がそれほど良くない、幼稚な感じのする女性が好きなようですね。男性が自信を持てないせいかもしれませんが、日本にはせっかく魅力的な女性はたくさんいるのに、もったいないです。

例えば、日本の男性はカフェやバーで素敵な女性を見かけても声をかけられずに、結局ホステス・クラブに行って店の女性に相手をしてもらう。予定調和でサプライズは何もありません。知らない女性に声を掛けるにはちょっとした勇気が必要ですが、あくまで自然に、自分がその瞬間に感じた気持ちを相手に伝えることが大事です。隣に座っている女性に興味を持って、かわいいと思えば自然に話しかけてみる。相手のことを知りたいと思う気持ちは人間として当たり前の感情です。勇気を出してトライして、もしうまくいかなくても「C’est la vie」(人生って、そんなもの)ですよ。日本で出会いのチャンスが決して少ないわけではありません。私のお気に入りの場所は寿司バーですが、マスターと話をして、隣に座ったお客さんとも仲良くなって、おもしろい出会いやサプライズがたくさんあります。

私は日本に長く住んでいるし、日本男性の良さもよくわかります。優しさや奥ゆかしさ、ときどき垣間見せる少年のような心も。ただ自然な感情表現に慣れてないだけなのです。私にも日本人のボーイフレンドがいましたが、最初「Je t’aime」(愛してるよ)とどうしても言ってくれませんでした。理由を尋ねると「わざわざ言う必要はないよ、当たり前じゃないか」と。私は「愛してるという言葉で聞きたいの」と何回も言いつづけると彼も変わりました。その後はもう「ドラちゃん愛してるよ」と毎日イヤになるくらい言ってくれましたよ。

日本人が自然になれないのは教育の問題もあります。日本人は個人である前に、家族や社会や企業など共同体の調和を大事にします。フランス人は、個人が幸せだったら家族も幸せ、家族が幸せだったら国も幸せ、という真逆のアプローチですね。これはフランスが市民革命のなかで勝ち取ってきた個人の自由の歴史があるからかもしれませんが。他のヨーロッパの国々を比べてもフランスは全然違います。イタリアは私が大好きな国の一つですが、男性はマザー・コンプレックスが強くて社会自体はあまりおもしろくありません。ドイツはアムールをあまり大事にしないし、スウェーデンはフェアな国でセックスに関してもオープンですが、セデュクションがないから少しつまらない。私は最近キューバが好きでよく行くのですが、女性の肌の露出とセックスアピールがすごいです。銀行に行っても「Mi amor mi vida mi corazon」(愛しい人よ、心から愛してる)と声をかけてきて、最初はとても驚きました。スキンシップも多くて、いつもお互いにタッチしたりキスしたり、日本の正反対で少し疲れるくらい。しかしセデュクションがないからセクシーではありません。

日本でも歴史をひも解けば、江戸時代の町人たちはアムールを楽しみ、『源氏物語』の世界はセデュクションにあふれていました。いま日本は変化の時期ですが、社会的な役割やいままでのライフスタイルが自分にとって本当に正しいのか見つめ直すチャンスです。一度立ち止まって肩の力を抜き、もっとリラックスしてもよいのではないでしょうか。アムールに正しさなどありません、ルールやマニュアルに縛られずもっと自由に楽しんでください。一度きりの、自分だけの人生なのですから。

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*プロフィール
ドラ・トーザン
(Dora Tauzin)
エッセイスト、国際ジャーナリスト。フランス・パリ生まれ、東京・神楽坂在住。ソルボンヌ大学、パリ政治学院卒業。国連広報部に勤務後、NHKテレビ『フランス語会話』にレギュラー出演、慶応義塾大学講師などを経て、東京日仏学院などで講師を務めながら、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、講演など日本とフランスの架け橋として多方面で活躍中。著書に『ママより女』(小学館)、『パリジェンヌ流 今を楽しむ!自分革命』(河出文庫)など多数。