タイトル
放談|なるようになっちゃおう!
著者 / 話者
青木武,金子義孝,掟ポルシェ,小明

理路整然とした正しさとは正反対の、欲望むきだしであるがゆえにおもしろい、まるで魔窟のような中野ブロードウェイは、どうやって生まれたのだろう。中野ブロードウェイ商店街振興組合理事長・青木武さん、同専務理事・事務局長の金子義孝さん、20年来中野に在住する掟ポルシェさん、つい最近まで中野に在住しブロードウェイに足しげく通っていた小明(あかり)さんをお招きし、中野の名店で酒をひっかけながらその起源をひもとくことで、中野という街自体の色を塗り替えた中野ブロードウェイの魅力に迫る!

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時代を映すブロードウェイ
中野ブロードウェイは、もうオープン47年ぐらいですか。
青木
今年の11月が来ると47年ですね。
元々、お店が並ぶフロアーの上のマンション棟には、沢田研二さんや青島幸男先生といったスターが住んでいて、いまで言う六本木ヒルズのようなハイソサエティな建物だったんですよね。それに、当時の中野ブロードウェイは、庶民的な商店街としてもすごい活気があったとか?
金子
地下にはちっちゃな魚屋が干物を売ってたり、お茶屋にしても、いろいろな乾物を売っているとか、2階なんか、トンカツ屋やら焼き鳥屋、とにかくすごかったよ。おもしろいお店や人が沢山だった。今も中野はお年寄りが多いけど、昔はもっとお年寄りや子どももいっぱいいたしね。
開業当初の中野ブロードウェイは、いまよりもっと生活感のある店舗が多かったんですね。
小明
私が中野に通い始めた頃には、もう中野はオタクの街で、中野ブロードウェイはすでに異世界でした。中野はいつからオタクの街になったんですか?
青木
1980年に古川(益三)さんが5坪ぐらいの「まんだらけ」を出したのがきっかけですね。古川さんご自身も水木しげるさんのところで修行していてマンガ家になろうという熱い気持ちを持っていた方で、「まんだらけ」という名前ではないけど、最初は京王線の国領にお店を構えて、そこがあまりうまくいかなかった。それで別のところに出そうとして、中野に目を付けたと。昔からブロードウェイは、一流のターミナル型のお店と違って、多少親の援助を得たりなんかして背伸びすれば、場所によってはお店を出せるような金額でした。それだけに、ポテンシャリティーのある若い方たちが、そこで自分のサクセスストーリーを描ける可能性があった土壌だったんですね。だからその頃から、おもしろい人が集まるには最適な器だったのかもしれないですね。
その80年代には、近隣のスーパーマーケットにお客さんをとられて閉店する店舗も出てきて、空き店舗が増えてきた状態だったそうで。
金子
バブルがはじけた頃だから、そういう店もあった。逆に、ずっとあったお店のオーナーが、他人に貸したり売ったりする際、今までの大きな店構えを分割して、小さな店がいっぱい増えてきたんですよ。それで、小さいけど安い店舗に若い人が参入してきて、新しいお店が増えた。
青木
結局、その時代その時代に受け入れられる業態というのがありますよね。時流に乗った人はグーッと伸びてくる。しかし、飽きられると衰退していく。栄枯盛衰を繰り返している、ある意味、非常に生きている建物ですね。66年に竣工した時点ではファションビルでしたが、5年経つと、もう陸続に新宿のターミナルビルがあり、さらに吉祥寺にも立川にもできたことで、ファションビルとしての機能が奪い取られていくという歴史的プロセスがちゃんとあるわけですよ。ブロードウェイという箱の中で、それに対抗できなかった店舗が人から人の手へ移る中で、非常にキャラクター性の強い才能を持った個性的な経営者が入ってくることによって、だんだんブロードウェイのポテンシャリティーが活きてきたんだと思うんですね。
それをいち早く活かしたのが「まんだらけ」。マンガの古書を専門に扱うことによって、その価値に見合った価格を与えて、市場を形成して店舗を増やしていった。マンガ古書って、手塚治虫といった大家の作品を除いて価格基準がなく、それまでは古本屋の親父の趣味と気分で決まるものだったのが、マイナーな作品にも適正な値段を付けて、隅々まで評価することに成功しました。同時に目利きの育成も。特定のジャンルに強い人=オタクに値付けをさせて、今の方法を確立した。「まんだらけ」の成功によって、オタク的知識さえあればビジネスが出来ることを示しましたよね。それもブロードウェイという場所だからこそだと思います。
青木
もちろん周囲との軋轢もあったでしょうが、古川さんが市場をそこへつくり出した。ご本人は意識しているかどうかわかりませんけど、査定という基準をつくったという意味では、非常に画期的なことだったと思います。
個人でケース単位でスペースを借りて商売ができるレンタルショーケースショップが秋葉原でも流行っていますが、自分の創作物以外を入れて売るのはブロードウェイが発祥だとか。ある意味、中野ブロードウェイに数千円で自分の店が持てる。これはうれしいですね。

──編集部 新規ビジネスが生まれる、日本のオタク版シリコンバレーみたいですね。

誰かにとってはゴミ、誰かにとっては宝物
小明
ブロードウェイ内での売買もありますよね。私の自費出版の写真集が「タコシェ」で新品で売られているのに、他の古書店で格安で売られているのを発見した時の、誰かが一度は買ってくれたという意味ではうれしいんだけど……っていうあの感じ(笑)。
中野から出られない小明さんの写真集(笑)。中野区内で延々写真集がリサイクルされている小明さんの知名度はきっと相当なものですよ!
小明
そう言えば、しょこたん(中川翔子)と一緒に「タコシェ」へ行ったときに、掟さんの著書が平積みされているのを見かけたことあります……。
武田久美子さんの貝殻水着の写真集をパクって、俺が同じ格好で写真を撮っている表紙の本を出したんですが、出版社がつぶれてデッドストックになったので、タコシェに引き取ってもらって独占販売してもらいました(笑)。中野的なリサイクルの循環ってありますよね。「まんだらけ」の100円コーナーでマンガをバラで1冊ずつ買って、全巻揃ったら100円本の目印であるマジックの赤い線をサンドペーパーで削って、また「まんだらけ」へ売りに行ったり。削った分、本の縦幅が微妙に短くなっていて、実際ちょっとバレ気味なんですが(笑)。
青木
古本というだけで完結するんじゃなくて、買った古本をまた持っていって「まんだらけ」はユーザーから仕入れるというその循環。普通の、メーカーがものをつくって上流から下流へ持ってくるというシステムとは全く異質の流通形態をつくり出したんですよ。
小明
キャッチ&リリースですね(笑)。本当に、とにかく中野ブロードウェイにいけば欲しいものは揃っちゃう。秋葉原も充実しているけど、離れた店舗を移動しなきゃ見つからないものが、食品でも服でも、とにかく行けば何とかなる。
中野では、飲食も安くないと昔から流行らないんですよね。4階に「帝国」という定食屋さんがあったんですけど、白身魚のフライ定食が380円(笑)。いまから25年前にしても激安だったので、何の魚を使っているのか聞いたら、仏頂面で「メルルーサです」と。そういうデカい深海魚がいるらしいんです。美味かったからいいんですけど(笑)。
小明
掟さんの奥さんも私もお世話になっている、婦人服の「らこっと」とか、地下の下着屋さんとか、数百円で買えてしまうけど全然質も悪くないんですよね。ブロードウェイには何でもありすぎて、よけいなものも買っちゃうんですけど。
その〝よけいなもの〟がまたおもしろいんですよね。
小明
そうですね。昔読んだけどなくしちゃったマンガとか、昔好きだったキャラクターものとか、なくても全然大丈夫なんだけど、あればうれしいものがいっぱいあるから、お金はどんどん吸い取られていきます(笑)。誰が欲しがるのかよくわからない、何でこれを出そうと思ったのか疑問に思うものも沢山ある。でも、それが意外と本当に欲しかったりするんです。
金子
良いものを出している店じゃないと生き残れないからね。マニアックな商品や店舗ばかりですが、いい加減では絶対通用しない。その良さというのも、いわゆる一般的に「良い」ものではない。
小明
ある人にとってはすごく良いもので、誰かにとってはゴミなんです。
金子
全くその通りで、人によってはゴミだけど、人によってはお宝というものが中野ブロードウェイにあるんです。
青木
今までにも、例えば風俗とか、際物的なものが出てきましたが、きちんと基軸を持ってやっていないと、自然と客足が遠のいて、中には数ヶ月で入れ替わることもあります。まさにあそこは一つの市場ですよ。だから、結局、ニーズに合わなければ退場していくしかない。それは非常にはっきりしていますよ。だから生存競争も激しい。
柳の下のドジョウ的な店ってあまりないし、あっても長続きしないですよね。中野ブロードウェイだけにしかないお店ばかりが最終的には残っていく。日本で唯一テクノポップ専門レコード店の「メカノ」があったり、狭い世界の中で一つの道を極めた方々が出店するというのが多いですよね。4階のゲーセンも、対戦ゲームが中心なんですが、剛の者しか集ってこない。弱いやつが来ても相手にならないから入れないんですよ。
青木
だけど、モニターなんかを見ても、ハードとしては相当古いよね。
ひと昔の前のゲームをやってみんなで盛り上がるなんて、それこそ中野ブロードウェイでないと成立しない商売じゃないですか。
小明
ヨーヨーのお店もありますよね。
金子
あそこのオーナーさんは、全国大会1位になった人だよ。
小明
えーっ(笑)!
やっぱりどメジャーじゃない、マイナー道を極めたトップの人が顔を揃えているんですね。秋葉原はオタクのど真ん中を扱うけれど、中野はど真ん中がちょっと苦手な人が集まっている。コミケが街になっているのが秋葉原だとすると、中野はコミケの中でも西館系。つまり「こんな同人誌作って誰が興味持つんだ?」というような偏った趣味の物で溢れているのが中野。中野ブロードウェイって、日常であって、ちょっとした非日常なんですよ。生活に必要なものより、ちょっと上ぐらいのものがある。すごく上の贅沢は、代官山や青山とかオシャレなところにありますけど、ちょっと手を伸ばせば届くところにある、手に取りやすい文化がいっぱいあるんですよね。
金子
あなたはずいぶん詳しいけど、本業は何なの(笑)?
本業は一応ミュージシャンなんですけど、音楽が一番食えてなくて……。だから、こういうちょっと偏った知識を話すのが仕事でして(笑)。昔からずっと中野にいるんですが、自分の趣味に中野ブロードウェイがどんどん近づいてきてるようで、なんだかうれしいです。
小明
時代が追いついてきたんですね。

日本はまだ大丈夫
小明
何でブロードウェイのエスカレーターは2階を無視して3階に直結させたんですか?
青木
手前にサンモールっていうアーケード街がありますよね。建築上、あの高さと揃えて繋がっているようにしたいという意図があったらしいです。その分、2階がまるで中2階みたいになってしまって、エスカレーターに乗った多くの人は、次のフロアが2階だと錯覚してそこから移動して現在地がわからなくなってしまうんですよ。その建築家は当初、技術的に可能だったら、4階までダイレクトのエスカレーターをつくりたかったんだそうです(笑)。でも、今から47年前にそういう先駆的な発想をした設計士というのはおもしろいと思いませんか。
2階よりエスカレーター直結の3階のほうが天井が高いですよね。だから、2階、4階のフロアには怪しい、隠れ家的な雰囲気があるわけですね。
小明
ブロードウェイの4階が宇宙につながっているという噂を聞きましたけど(笑)。
以前4階に、シャッターに唇が描いてある店舗があって、そこから宇宙につながっているって噂でした(笑)。
金子
最近、4階の店舗もかなり充実してきていますよ。
自分の嫁も、実は4階の占いハウス「中野トナカイ」で占い師をしています。4階って人通りが若干少なくて、それに適した店が集まっている。占いにしろ、悩みがあってきているのだから、店に入るところをあまり人に見られたくないでしょうし。病院が密集する通りには性病科もある。フロアの特性に最適な店並びに自然になっていますよね。
小明
ブロードウェイに来始めたころは、3階、4階に上っていくにつれて、なんか空気が歪むというか、脳みそがやられてクラ~ッとするんですよ。でも、次第に慣れていくんです(笑)。私、4階でオーラの写真を撮ってもらったことあります。あと、手相とか占星術とか、一通りやってもらいました。前世を見てもらったこともあります。
中野ブロードウェイでは前世も見てもらえる! すごい建物ですね(笑)。
金子
最近また占いが、1階にも地下にも増えてきていますよ。
増えましたね。何かと不安な世の中ですからね。
小明
やはり何かにすがりたいんだなと。私もですけど。
青木
ちゃんとそういう社会的な背景を敏感に感じ取って始める人がいるんですよね。
狭いニーズなんだけれども多種多様な店舗がひしめいていますよね。家賃が安いということもあるんでしょうけど。
金子
そう、店舗の方だけじゃなくて、マンションも今は安いんだよ。
一般のお客さんは入れないんですけど、友人が住んでいるのでマンション棟にも出入りさせていただいています。フロアが赤いじゅうたん敷きだったり、プールがあったり、当時の最高級マンションならではの作りがいっぱいありますよね。古川益三さんはじめ、中野ブロードウェイで成功を収めた方々が上に住むというケースも多い。渡辺浩弐さんだとか、オタクカルチャーで成功した人は、あそこに住んでみたいのかもしれないですね。だって、住んだら毎日「まんだらけ」にすっ飛んで行けるわけじゃないですか。ヤバいものが新入荷してないか四六時中見に行ける(笑)。
小明
一期一会というのが危険で、今買わなきゃこの本が売れちゃうと思ったら、「この辺にATMありましたっけ?」って店員さんに聞いて(笑)。
昔は1階にあったキャッシングコーナーでよくお金を借りました。
小明
でも築47年ということは、マンションの建て替えという話も出るんでしょうね。
でも、建て替えてしまうと、現在の形式は維持できないですよね。
青木
500人以上の権利者がいて、日本中に散らばっちゃってますから、立て替えはほとんど不可能に近いですね。
金子
まあ、地震が来てもあんまり揺れないし(笑)。
小明
でも、「まんだらけ」や「タコシェ」は、本が詰まり過ぎているから、意外と……。
青木
だいぶ落っこちましたよ。すぐに店内にいた方を避難させましたけどね。
小明
私、震災の時に、あまりに不安で、誰か人のいるところに行きたいと思って翌日にはもうブロードウェイに行ったんです。そしたら、自分と同じように行き場をなくした人たちが普通に「まんだらけ」で立ち読みしてたので、ああ、よかった、日本はまだ大丈夫と思った(笑)。
いまや世界中から、行き場をなくした人たちが集ってきていますから(笑)。
金子
大体、土日祭日の来場者1日5万人のうち、1割は外国人ですね。わざわざ中野にくる人は目的を持っているので、完璧に求める場所にストレートに向かうので、別に通訳とか要らないんですよ。
数年前、『キャプテンハーロック』のセル画を置いている店はないかとフランス人に聞かれたことがあるんですが、ハーロックは古過ぎるからさすがにないよと(笑)。でも、その外国人客もわかっているんでしょうね。ここに来ている人たちはたぶん自分と同じような趣味を持っているから、店にはなくても、こいつらなら持っていてもおかしくないと(笑)。
かわってもおもしろい

──編集部 ブロードウェイに入る店舗に関して、何か規定や基準のようなものは設けなかったんですか?

青木
区画ごとのオーナーが不動産屋を通して店子を探すという形ですから、もし私どもの商店街が介入してこういう業種はダメですと言える権限を持っていたとしたら、多分今のようなブロードウェイのあり様というのはなかったでしょうね。あそこは型にはめられることを嫌う風土があると思うんです。いろんな野心を持った方たちが挑みたいと思って入ってくるわけじゃないですか。もちろんその人たちにそんなにおおげさな気持ちはないとしても、ここに行けば自分の好きなことがやれるという土俵にあるから、そこはもう私たちがどうにかできるものではない。
小明
でも最近、マイノリティのメジャー化が図られているじゃないですか。例えば中野ブロードウェイがデートスポットになっているんですけど、自分にとっては、戦いに行ったり羽を休めたりする聖域なんです。趣味をむき出しにできる聖域なのに、カップルでいちゃいちゃかよ! と思う。
若干の後ろ暗い気持ちを持って来いよ、みたいなね。昔の中野カップルは、例えば自分はマンガを見たい、自分はソフビ人形を見たいといって、来るなり別行動(笑)。
小明
現地集合・現地解散ですよね。私だって、中野ブロードウェイでデートがしたいけど彼氏がいない!
彼氏と歩きたいという気持ちはあるわけですね(笑)。
小明
ありますよそれは。ブロードウェイに行って「タコシェ」にふっと寄った時に、彼が偶然私の自費出版の写真集を見つけて、「やだ、恥ずかしい」「でも絶対計算してるよね(笑)?」みたいな。本当はそういうのを見せびらかすように練り歩きたいですけど……。とにかく!ブロードウェイは私の聖域なので、やっぱりいつかはブロードウェイに住みたいってずっと思っています。もう築47年かもしれないけど、70年ぐらいまでは頑張ってほしいな。
青木
当初、マンションは60年ぐらいしか持たないだろうとも言われていましたが、100年もつとも言われています。ただ、いずれにしろ建て替えなければならない時がくるわけで、その時、お金の面での心配ももちろんですが、今のブロードウェイとは全然変わってしまうでしょうね。
今、中野北口が再開発されて、警察大学校跡地に一大施設ができていますよね。
青木
そうですね、ただ、今のところ商業施設はなくて、学校と、あと企業がオフィスとして構えるビルができるらしいです。
金子
大学が3つできるらしく、学生が増えるじゃないですか。その結果、中野はどういうふうに変わっていくかね。
青木
ここ3年ぐらい前から、アーティストの村上隆さんがお店を構えて、あれよあれよという間に5軒ぐらいに増えています。物を売ると言うよりも、ギャラリー的なお店の展開の仕方を、銀座や六本木ではなく、わざわざこの古びた建物の中でやっているのが象徴的に思えるんです。
やっぱり客層ですよね。銀座のお客さんはある程度年配の方々で、社会的に確立された趣味を求めている。絵画にしても、風景や裸婦を写実的に描いた油絵だったり、商品価値が確立された芸術の要求度が高い。村上隆さんは、ご自身が作られるポップアートのようなものなら、いまや銀座よりも中野でニーズがあることを察知されたんでしょうね。
青木
無名だけど、夢と希望に満ちあふれた若いアーティストが、たぶんあのギャラリーを相当数訪れるんだと思うんですね。村上さんご自身も若いときは来ていたらしく、その匂いを恐らく感じ取っていたのかなと。私が2年ぐらい前からよく言っているのは、そういった〝サブカルチャー〟や〝オタク〟という言葉そのものが、今は死語になりつつあります。ある種、そういうのがむしろ主流のカルチャーになってきて、そこへポップカルチャーの村上さんがポーンと現れて味付けをしてきました。これが、今あそこの中で起きている現象でしょうが、この先どういうふうになるかと思っています。
村上さんに見つかったということは、我々が持っている本来泥臭い趣味が、オシャレになりつつあるということでしょうね。村上さんは、なんでもポップなものにしてしまう才能を持っている方ですから、そこに違和感はありますが。村上さんの店舗が広まっているということは、中野ブロードウェイにあるサブカルチャーの一つ一つも、最早「サブ」とは呼べなくなって来ているという、象徴的な出来事かもしれません。
青木
最近、「らしんばん」という、アニメのCDなどを扱う「まんだらけ」のライバル的存在が現れて、大変な盛況なんですよ。今まで「まんだらけ」の一大勢力図に、一石を投じる競合が出てきている。かつて狭く確固とした世界とされていたジャンルにも競争原理が働き始めているという意味では、また違った流れが出てくるきっかけであり、私たちは非常にそれを歓迎しているんです。今、そういう過渡期にあると思いますよ。

──今、中野を盛り立てているサブカルチャー〟や〝オタクカルチャー〟を守りたいわけでもなく、それが変わることも歓迎なんですか?

青木
今の濃い文化が攪拌されていく中で、生き残りをかけて競合するのは当然のことです。マーケットが持っている性質として、変化は避けようがないですから。
金子
いわゆる進化です。だから、今後中野ブロードウェイがどういうふうに進化していくのか興味があるんです。

わからないからおもしろい
ネットで検索すると、ブロードウェイは香港のクーロン城(九龍城砦)に近いと言われていますよね。
青木
かれこれ6~7年前、インタビューや雑誌などで、必ずそれに例えられたんですよ。ところが、クーロン城がなくなっちゃって、ブロードウェイ自体も中身が変わってきたから最近ではあまり言われないですね。
小明
今、台湾に中野ブロードウェイっぽいオタクビルがあるんですよ。台湾は親日国家だから、ほとんど日本の商品ばかり並んでいて、だから別にレアなものでもないんですよね。
青木
よく、ブロードウェイと同じような店を集めて商業ビルをつくりたいから教えてくれという問い合わせもあるんですけど、絶対に無理ですよ。意図的に何かをやろうとする場所に、そういう能力を持った人は行かないし、入らないし、またそれが育つような土壌には絶対なり得ないですね。

──編集部 〝なってしまった〟としか言いようがない。

都内の他の場所では中野程の低価格で商売が成り立たないということが大きいと思います。新宿から電車で5分の好立地にもかかわらず、ブロードウェイは家賃が安い。〝中央線文化〟ってよく言いますけど、あれは中野じゃなくて高円寺から始まると思うんですよ。「まんだらけ」が店舗を拡大していった80年代後半、世はバンドブームで、バンドマンはみんなライブハウスがある高円寺へ住みたがった。その結果、思い切り安くて汚い風呂なしアパートか、セキュリティー完備の高級物件しか高円寺には空き物件がなかったんですよね。それで、高円寺の隣駅の中野に奇妙な創作意欲を持った若者が集まってしまった背景があると思うんです。高円寺を起点として、国分寺辺りの美大生を中心とする〝中央線カルチャー〟に入っていけなかった人たちが、本筋からちょっとズレた部分を中野で発展させていったという感じもあります。
近年、秋葉原の地価が本当に高くなっちゃって、貸しショーケースさえ埋まって高騰してきた。そうなった時、秋葉原の外付けハードディスク的に、中野にスポットがあたったんです。中野ブロードウェイでは、「まんだらけ」が既に多角的な店舗展開をしていて、秋葉原的・オタク的なものが入り込みやすかったのが大きかった。2000年代に入ってからのブロードウェイの発展は、秋葉原が繁栄しすぎたという側面もあると思います。秋葉原はまず地価が高いから新規参入が難しくなってきてますし、ベタにオタク的なものしか求められない。その点、中野だと多少ひねった商売でも、地代が安いから小規模なところから楽に始められるわけです。
小明
わかります! 昔、アイドルとして事務所に所属していた時、秋葉原で〝妹系〟というジャンルが流行ったんです。事務所の人間がノリノリで、『秋葉のいもうと』というCDを出したところ、秋葉原で一切売れず、出した会社がつぶれ、アイドルをやめ、その数年後には中野ブロードウェイでゾンビになってゾンビ映画上映記念イベントに出演するという受け皿の広さよ……。本当にすばらしい(泣)。
青木
秋葉とブロードウェイとはスタンスが違いますからね。AKB48が出てきた〝芸能の秋葉〟に対して、中野オリジナルのイメージづくりというのが、できてきていると思っています。
今までは、マイノリティにとっての居心地の良さを集約した街でよかったですが、でもこれから、いわゆるマジョリティ側である学生が入ってきてどう変わるのかというのは、確かに興味がありますね。
小明
超変わりますよ! 学生ってなんか過剰にはしゃいでて怖いじゃないですか……。学生時代にうまくグループに馴染めなかった人が自然に集うのがブロードウェイだというのに!
コンパノリの学生は、オタク的なものとの対立項ではありますよね。僕も中野という街自体が変わると思います。もしかしたら中野がありきたりな若者の街になって、東中野が拓けていくかもしれない。あるいは、「タコシェ」で小明さんの本を見た学生の方が逆に影響されて人気が沸騰するかもしれないですし!
金子
今まで眠っていたものが目覚めるかもしれないですね。
若者文化に対抗し得るだけのカルチャーは既に確立しているわけで、向こうが取り込まれる可能性だってありますよ。わからないですよね。
青木
ブロードウェイは本当に万華鏡です。いろんな感性がぶつかり合って、その中で弾き飛ばされるものもあれば、生き残っていくものもある。ただ、間違いなく、中野はそれが許される場です。だから、今の中野が変わることはある意味、危機かもしれないけど、非常に神秘的で蠱惑的な別の側面が出てくるかもしれない。我々からすると、非常にダイナミックな状況が来ているかなという気がしているんですけどね。
そうかもしれないですね。常にオシャレな青山みたいな街並みは、実はそんなに移り変わりってないかもしれない。文化というものがどう移り変わっていったのか、中野を見ていればわかるかもしれないですね。
金子
非常識でもいいんですよね。そういうものは魅力を放つかもしれないし、いつか評価されるような新しい文化になるかもしれないんだから。
青木
中野は、欲望と希望の街なんだよ。欲望も渦巻いているけど、まず希望がなければ、そもそも47年も経った小汚いビルに人は集まらないでしょう。
汚いからこそ希望があります。
青木
燦然と輝いているでしょう?
小明
輝いてます。もうドロドロ輝いてますよ。
青木
ファッションビルから進化した今の中野ブロードウェイは、〝パッションビル〟ですね(笑)。