タイトル
カンヌを世界一のラーニングプログラムにしたい

南仏の初夏に60年続くこのフェスティバルは、名前をカンヌ国際広告祭からカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルと変え、猛烈なスピードで進化し、拡大しつづける。世界90カ国から12000名の参加者、92カ国から出品クリエイティブ数36000点。7日間に渡り、60の講義と、30のディスカッションフォーラム、16のワークショップと、10の集中講座を持つ「学びの場」として成長した。歴史的な賞も、増設を重ね、Film 部門、Film Craft 部門、Press 部門、Outdoor 部門、Radio 部門、Direct部門、Promo & Activation 部門、Media 部門、Cyber 部門、Mobile 部門、Design 部門、PR 部門、Titanium and Integrated 部門、Branded Content & Entertainment 部門、Innovation 部門、Creative Effectiveness 部門の16に分かれ、世界中のクリエイターに具体的な指針を与えている。今、カンヌは、美大とビジネススクールと工科大学を掛け算したような、けたたましい濃度の182時間を与える大学と化している。すべてを総指揮するテリー・サベージ会長に、フェスティバル初日に話を伺った。

INTERVIEW
『カンヌを世界一のラーニングプログラムにしたい』
テリー・サベージ [カンヌライオンズ 国際クリエイティビティフェスティバル 事務局 総指揮代表]
Terry Savage

聴き手:
市耒健太郎 [『広告』編集長]
Ichiki Kentaro

『広告』編集部(以下、編集部):カンヌライオンズフェスティバル60周年、おめでとうございます。

テリー・サベージ(以下、テリー):ありがとう。

編集部:テリーさんがCEOとして、そして会長としてフェスティバルを総指揮し始めてから、11年です。そしてこの短い間に、CMの祭典として歴史的に続いてきたカンヌを、大胆不敵に変革させました。広告業界自体を、意識的に牽引しているという認識がありますか。

テリー:11年前に僕が就任してすぐに分かったこと、それは、このフェスティバルにはものすごくノビシロがあるということ。僕は2つの点で、このノビシロに挑んだ。一つは、マーケッターをどんどん呼ぶこと。実際にデザイナーや映像業界の才能を探しているのは、マーケッターだろう。広告業界で閉じてないで、もっと戦略担当やマーケティング担当、さらにはクライアントまで呼んで、徹底的にディスカッションすればいいと思ったんだ。違う言葉で言うと、クリエイティビティの開放だ。

もう一つは、カンヌを広告賞の祭典から「ラーニングプログラム」にしなければならないと思った。賞もCMを頂上とする閉じたものではなくて、どんどん新しい部門を作っていけばいい。また賞の他にも、これだけの才能が異業種から集まるんであれば、どんどん授業をやったり、話し合いが始まる場になればいいと思った。

編集部:つい最近のカンヌまで、広告業界の、しかも映像関連の人だけだったことを思い出すと、ものすごい変化です。

テリー:対話の質を考えてみると、CMの人がCMの人と話すだけじゃもったいない。今や広告業界からも、デザイナー、映像、デジタル、マーケティング、PR、アカウントエグゼクティブと参加層も多岐に渡っている。そして、クライアントの数がここまで増えたのが大きい。クライアントがいれば、自然にマーケティングの話、経営の話になる。この広告がこの賞をもらっているのって意味があるのか、創造性は経営にどう役立つのか。広告会社からも多様性をもった人材が、対話をしに来るようになった。さらに、広告業界以外からも、プログラマーやエンジニアも来るようになって、テクノロジーとクリエイティブの話しも盛り上がっている。まさになんでもありだ。

本当のスタディは、大学じゃなくて、現場から生まれている。

編集部:ここまで急速にセミナーやワークショップを充実させるために、どのようなお考えでプログラムを設計していますか。

テリー:まずは、とにかく多様性を高めること。クライアントが来れば、エージェンシーのプレゼンも充実する。デジタル系ブティックが来れば、伝統的クリエイティブも張り合いが出る。カンヌのセミナーを、情報産業のリーダーシップを競うプレゼンテーションの場にするというのがひとつ。もうひとつは、若い人材のためにできることを考えること。20代の参加費を安くする。ワークショップを増やす。ヤングカンヌコンペなどの登竜門的なことを積極的に始める。カンヌはいまや、プログラマーとアーティストが垣根を超えて話せる最高の場になってきた。若者は、業界の宝だからね。

編集部:今年は、ハーバード大学やペンシルバニア大の経営大学院も参加して、MIT Media Labのレクチャーも入りました。年々、アカデミックな度合いも増しています。

テリー:驚くことかも知れないけど、特にわたしたちが切望していることではなくて、あちらからのアプローチなんだ。多くのイノベーションは、大学で生まれるのではなくて、デザインや企業の現場で生まれるということを彼らも知っているから、広告やメディア、そしてクライアントと生で触れ合うことを求めている。

学生は学校で理論を学ぶ。しかし、カンヌには、理論を経て実際に社会で実現されたマーケティングしかない。そんなショウケースが、世界中の最高のクオリティのものだけ、一気に見れる場所はないだろう。今年を見るだけでも、世界のトップスクールの講義に並んで、もっとも人気なのはFacebook、Google、LinkedIn、Microsoft、Yahoo!、Instagram、Twitterらの講義だ。実際に世界を牽引するデジタルクリエイティブの最新の実験がここに揃っているんだから。

賞はわたしたちが作るのではない。時代が作る。

編集部:セミナーも増え、場も拡大しますが、賞の部門も、毎年増設していますね。これからも、このように増え続けるんでしょうか。

テリー:昨年はモバイル。今年はイノベーション部門を増やした。でも大切なのは、これは僕たちが決めているという感覚はなくて、時代の要請を受けているんだよ。僕たちカンヌフェスティバル側が机に座って、会議室でこの部門を増やそうとか冷静に話しているのではなくて、創造性を考えるときに時代にあふれでてくるもの、今だ!というものに限って、増設している。

大切なのは、カンヌが広告業界の将来を決めるのではなく、カンヌは広告業界の意識の映し鏡だということ。ぼくらが牽引しようとしているのではなく、時代が話したいこと、大切に思っていることの集まる「場」を作ろうとしている。

編集部:部門や賞が多すぎて、混乱する危惧などはありませんか。

テリー:全然ないよ。世界中の業界を代表するリーダーが、未来の標準について話し合い、若い世代への指針として、全身全霊で受賞作を決める。そこには純粋な自由と勇気がある。 もし形骸化した部門があればなくなればいい。

また、この部門ではこういう作品を選ぶべきだ、あるいはこういうのは落とすべきだという意見があれば、フェスティバル側は柔軟に対応する。たとえばアウトドア部門を、伝統的屋外広告とより未来的なアプローチを好むアンビエントの2つに分けたように、未来は自由に作っていけばいい。繰り返しになるが、カンヌが時代を作っているのではなく、時代がカンヌを作るという、自由な場でいたい。

カンヌが投資家であふれるのも時間の問題。

編集部:新設されたイノベーション部門は、今年の目玉になりそうです。DROGA5のデイビッド・ドローガを審査委員長に据えたのも戦略的で面白い。

テリー:創造性を語るときに広告だけで語るのはもはやナンセンスだろう。そのときに、たとえばビジネスモデル、たとえばテクノロジーと社会の在り方を考えることが、未来につながると考えた。それは広告会社の将来にもつながると思っている。なぜかというと、広告業界のひとはアイディアを考えるプロ、ひと月に100も200もアイディアを考えられるのに、それをクライアントに無料で売っているんだ。でも、たとえば投資家と一緒にビジネスモデルをゼロから考えるのに、クリエイターの力を使えないか。僕が頭に描くのは、そういう世界なんだ。

編集部:日本には総合広告代理店が多く、得意先に対して商品開発や経営ビジョンの策定など、広範囲に深くつき合うことが歴史的に得意です。でも、これからは、それがさらに進化して、クリエイターのアイディアとテクノロジーが掛け算したところに、スタートアップファンドが入って、IPOしていくみたいなことが起きるのかもしれません。

テリー:まさにそう。カンヌは映像の祭典から始まって、クリエイター、マーケッター、クライアント、テクノロジーへと急速に拡大したが、今後はもっともっと多くの投資家が来るようになるよ。これは確実な予言だ。実際にテクノロジーはテクノロジーだけでは面白くないし、アイディアはアイディアだけでは面白くない。そこがぶつかったところがビジネスだ。昨年チタニウム部門のグランプリをとったR/GAの創造性(NIKE+ Fuel Band)は、商品やユーザー体験そのものに向かっている。世界中のデジタル系メディア会社の立ち上げに、広告出身のクリエイターが参加している。
またプログラマーが、広告業界のクリエイティブに入ってきている。業界を超えて、職種を超えて、「創造性」には、世界を引っ張る力がある。

シリコンバレーでも、実際にベンチャーキャピタリストがその創造性を後押ししている。より多くの投資家がカンヌに参加し始め、アイディアの種を前のめりで探し始めて、そこに真剣に投資しはじめれば、このフェスティバルは、今ともまったく違うプラットフォームへと進化する。それを、君たちの世代に始めて欲しいんだよ。