タイトル
0→1→100万 新しい「1」の作り方 AP-Lens
著者 / 話者

鈴木雄貴さんによって作られたオリジナルのカメラレンズをつくるためのメタデザイン。彼がデザインしたものはオリジナルのレンズそのものではなく、レンズを作るための「仕組み-生態系-」なのである。
この仕組みによって、誰もが、自分の撮りたいモチーフ、画角、光のためのオンリーワンのレンズを開発できるようになるのだろうか?

マスプロダクションとパーソナルファブリケーションとメタデザイン

私たちが今店頭やネットで購入し、使っているものの大半は、マスプロダクション(大量生産)によって生み出された製品(マスプロダクト)だ。

市場は、市場を意識して作られたマスプロダクト(大量生産された製品)で埋め尽くされている。近年、それを打破するための受け皿としてパーソナルファブリケーションという概念が生まれた。

パーソナルファブリケーションの登場によって、大量生産だけでは満たされない欲求を生活者が持っているということが少しずつ明らかになってきた。大量生産はできるだけ多くの人の欲求を、できるだけ多く、効率よく満たすための生産方法であって、特定の個人の欲求を100%満たすための生産方法ではないからだ。

今後、パーソナルファブリケーションが広がり、一般的な文化レベルまで浸透していくときに問題となるのは、「欲しいものやつくるりたいものの欲求を明確に持っていたとしても、一般的な生活者がそれを実現するだけの技術と知識を必ずしも持っているわけではない」ということだろう。誰もがデザイン教育を受けているわけではないし、誰もが高い技術力を持っているわけではない。1からそれらを身につけようとしても、この1分1秒を争うような忙しい現代社会を生きている現代人にはそんな余裕はない。

しかし「誰もが欲しいものや作りたいものをつくること」を可能とする仕組みをデザインすることで、大量生産とパーソナルファブリケーションの中間にあるグレーな部分に製品を提案するというコンセプトで、「誰もが、自分の欲しいオンリーワンのレンズをつくるための仕組み」をデザインしたのがAP-Lensだ。「デザインする」という行為をデザインした、まさにメタデザインの例である。

AP-Lensから生み出されるプロダクトは、設計図である「デジタルデータ」と、デジタルデータを元に素材を加工する「デジタル工作機械」を最大限に活用したプロダクトだ。まず、3Dモデリングソフトを使った光学設計シミュレータを使って、自分の好きな形のレンズをつくるための設計データをつくる。このとき、いくつかの変数を変えることで、好きな形をつくることができる。設計データができたら、レーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタル工作機械を使って、その設計データ(ビット)を物質化(アトム)していくのである。

現在、その光学設計シミュレータは一般には公開されていないが、誰もが自分の好きな形のレンズを簡単に設計できるように、現在公開の準備を進めている。

メタデザインをする上で重要になってくるのが、最終的な製品(メタプロダクツ)を中心として、その周りを取り巻く要素の「関係性≒生態系」をどのように構築するのかという点だ。

例えば、AP-Lensでは、設計データや実際に撮影された写真を共有するためのWebプラットフォーム(Thingiverse, Flickr, Tumblr)、設計データからレンズを実製作したり、デジタル工作機械に関するノウハウを蓄積するコミュニティや工房(f.labo, FabLab)の関係性を有機的に繋いでいる。異なる特性をもったオープンプラットフォームをうまく行き来しながら、誰もがレンズを使ったり、つくったりできる新しい製品とユーザーのあり方を提案している。

つまり、AP-Lensとは、最終製品であるレンズの基本形となる「型」と、その型を誰もが自由に改変•物質化•共有をできるようなプラットフォーム群とがパッケージ化されたものなのだ。

Web上のコミュニティによる開発で大きく発展してきたオープンソースの潮流が、物質的なハードウェアに広がってきたことによって、今後こういったユーザーが自由に関与し、製品の生態系を豊かにしていけるような、製品との関係は増えていくだろう。