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100円で感動させたい | 大量生産・大量商品という工芸
著者 / 話者

100円で感動させたい|大量生産・大量消費という工芸

植竹謙吉
株式会社キャンドゥ 商品本部

店内すべての商品が100円で販売されていて、老若男女だれもが気兼ねなく、買い物の楽しさを味わうことができる空間。ひとたびその売場に入ると、眠っていた買いもの欲がおもわず爆発してしまう。1980年代に生まれたともいわれる現在の100円ショップは、いまや「百均」と言えばそれ以上に説明の必要がないほど、日本人から支持され、僕たちの生活に浸透している。各種雑貨を含む100円ショップの市場規模は、なんと2.5兆円とも言われ、全国での店舗数は、6,000店を超える。
そんな100円ショップの大手チェーンの一つであり、首都圏を中心に、全国で850以上の店舗を展開し、2万5000種類以上もの商品を100円(税別)で販売しているキャンドゥ。その旗艦店の一つで、西武新宿ペペの8Fフロア全体を占める西武新宿ペペ店。雑貨部門の植竹謙吉氏にお話を伺った。

100円ショップという形態をとるキャンドゥには2つの挑戦すべき制約があります。それは、100円という価格上の制約と、店舗での商品陳列スペース上の制約です。それらの制約の上で、企業としての利益を確保しなければなりません。キャンドゥでは、すべての商品が100円(税抜)で販売されていますが、100円で利益を得るため、原価だけを考え、質を下げてしまうと、お客様は離れてしまいます。また、以前は100円以上の価格の商品も存在していたのですが、いまは100円という価格にこだわりを持ち、これからはすべての商品を 100 円(税抜)でご提供していきます。買い物かごに、あれもこれも入れて全部で、100円×何個=いくら、というその単純さというのが、お客様にとってわかりやすく、買い物の楽しさを高めてくれると考えているためです。

大量生産・大量消費と言われますが、私たちは、商品に対しての自信を持っています。たとえば、ボールペン1本つくるとき、質の良いものをつくろうとして1,000円かければ、それなりに簡単に質の良いものは作れます。しかし、質の良いものを100円で提供しようとすると、製造方法、仕入れ先、仕入れる量、人件費、輸入ルート、など、コストカットの手法を、高い品質を維持したままどう実現できるかというところの追求が、きわめて高いレベルで必要になってきます。そういう努力を積み重ねた上で、100円商品を2万5000アイテム揃えるということ。そこには、誇りを持っています。

ここ数年、商品の質に対する目が厳しくなってきています。これまでは、100円という価格パッケージングのわかりやすさと楽しさ、もしくはこんなものが100円でという驚きだけで売れていた商品が、最近は売れなくなりました。それは、お客様の中で、リピーターの占める割合が増えたからもしれません。目の肥えたお客様に、再びキャンドゥを訪れていただくためには、商品の質がもっとも重要なことの一つだと言えます。

象徴的な例は、この業界で唯一、私たちは創業当初から、食品を除くすべての商品に対し「1年間の保証制度」を行っています。商品の質に責任をもつという決意の現れとして、店内のわかりやすい位置に保証制度のご案内をするポスターを掲げています。また、創業 20 周年を迎えた2013年には、特に質にこだわっている商品を、お客様にもわかりやすいカタチで提供できるよう、パッケージにキャンドゥのロゴマークにもある「オレンジの星」をつけたDo!STARSというラインをもうけ、なぜその商品の質が高いといえるのかという説明と共に、どなたにもわかりやすいようなカタチで陳列しています。もちろん、これらの商品も100円で提供しています。

2つめの制約である、店舗での商品陳列スペースについては、陳列効率だけを高めるために、商品を売り場に詰め込めるだけ詰め込んでも、いまのお客様には喜んでいただけません。以前のキャンドゥの店舗には、人が2人通るのが難しいくらいの狭い通路に、これでもかというほど高く商品が積み上げられていました。それは、100円ショップがある種の「宝探し」的な価値を提供できていたころは機能していましたが、今の100円ショップは「宝探し」の場としてはあまり求められていません。狭いところにたくさん入れればそれだけ経済効率的なのですが、お客様には探しにくく、わかりやすくないというジレンマがそこにあります。現在、私たちは、入りやすく、見やすく、買いやすく、そして、楽しい店を目指しています。

100円でいかに質の良いものを提供するかだけはなく、いかにお客様が楽しく商品を選ぶことができ、かつ十分な品揃えを持てるかが重要です。あくまでも、キャンドゥは、老若男女が分け隔てなく、買い物を楽しめる場であるべきと考えているため、着々と増えている新ブランド仕様の店舗では、店内がかなり混み合っても十分なスペースをとれるよう通路を広くしましたし、商品の陳列の分かりやすさも、常に改良しています。例えば、女性のお客様が手の届く高さにしか陳列はいたしません。100円ショップにおいては、良い物を買うだけではなくて、「楽しく選ぶという体験」も買い物の一部なのです。

商品を改良し続けて、店舗環境を改良し続けるのに、立ちはだかる「100円」というハードル。それを乗り越えて「ああ、良い物を安く買ったなあ」というお客様の喜びが、私たちにとってはなによりの広告です。キャンドゥでは、広告宣伝費をほとんどかけていません。もしも広告をうっている余裕があるのであれば、商品の質を高めてほしいという要望がお客様からすぐに出るんです。

安く大量の物を売るという業態に対して、いろいろなお考えを持たれる方もいらっしゃると思いますが、私たちはシンプルに、100円で「人」を感動させたい。その思いだけで、毎日、商品を磨き続けています。