タイトル
アトムとビットが恋に落ちれば
著者 / 話者

20世紀末、アトムとビットは急速に切り離された。解き放たれたビット=情報だけがいま、ネットワーク上を飛翔し、世界を高速に駆け巡っている状態。便利か、うれしいのか、分かりづらい世の中かもしれない。実は、こういう構造自体が、わたしたち生物の生成原理からはほど遠いのだ。そもそも、DNA=デオキシリボ核酸は、遺伝情報を担う物質であり、配列そのものは情報である。RNAに転写された遺伝情報は、リボゾームで20種類のアミノ酸にそれぞれ翻訳される。それらが組み合わされてタンパク質がつくられ、肉体が生まれる。リボゾームは、「情報から物質を生産する体内の工場」なのだ。リボゾームはリボゾーム自身をも生産する。このことから2つの学びを引き出そう。まず遺伝子の成り立ちに習えば、ビット=遺伝子情報とアトム=タンパク質とは、そもそも分離されておらず同じものごとの側面でしかない。次にリボゾームに習えば、情報は常に物質に翻訳され組み立て続けられている。このプロセスこそが、われわれの肉体を支えているのだ。わたしたちは、次なる創造性に向けて、生物の原理に学んだ新しい「ビット-アトム翻訳機」を必要としている。ポジティブに捉えれば、アトムとビットがこの数十年で一旦切り離されたがゆえに、その結びかた、つなぎかた、そして衝突のさせかたに、未知なるクリエイティビティを投射することができるのだ。身の回りにある資材を、別の有用な何かへと人為的に変化させていくことは、太古から変わらない。しかしまた、ビットの時代を経たわたしたちには、過去には無かった新しい認識が備わっていることも忘れてはならない。それは、制作行為そのものに埋め込まれた見えないアルゴリズム(生成過程)に気づくことができるようになったことだ。現代は、アトムとビットの関係性を自覚しながら、そしてお互いを高めながら、これまでにたどり着かなかったデザインにまでいたることができる。違う言葉で言えば、高速で設計と制作とを行き来することで、これまでになかった生物的創造性を、定着させることができる。たとえば建築においては、建物の構造計算、エネルギー供給、アフォーダンス、モジュール、制作工程、組み立て工程、耐久性など、すべてを変数化して、それらの条件をすべてクリアしたなかでの総合的な創造性を模索することが可能になってきた。そこに生まれるのは、高速なシミュレーションと職人技を共存させた新しいアルチザンの姿である。私たちの生活周辺でも、3Dプリンターと3Dスキャナーの関係は、転写と生成の関係を急速に新たな次元に導くであろう。アトムとビットがふたたび恋に落ちるとき、創造性の新しい歴史が始まるのだ。

バルセロナの建築大学IaaCが設計したFablab Houseは、Solar Decathlon Europeへの参加プロジェクトで、表面の大半を覆っているソーラーパネルによる発電のみで機能することが出来る自給自足が可能なソーラーハウス。 8軸のCNCルーターにより切り出しされた 構造体は、3本足にて約70㎡を支えている。ファサード、構造体、内装まで、すべてデジタルファブリケーションにより構築されている。新しい感覚が生まれるのは、設計とエンジニアリングと制作を綿密に織り込んだその手法。