タイトル
用の美
著者 / 話者
null

用の美

シンスケの一合徳利

提供:正一合の店シンスケ
湯島三丁目

大正十四年の創業から90年の時を抱いてきた「シンスケ」。東京大学や東京藝術大学の歴々の教授、企業やお役所のお偉いさんがこよなく愛する、もっともシンプルで、もっとも美しい酒文化がここにある。店に入るだけで「あっ」と感じる気持ちよさが広がる。酒は「両関」の一合と瓶ビールのみ。肘をついて手酌で一番楽なカウンターの高さ。隣との椅子の距離。樽との距離。すべてが酒呑みの生態系に対して、さりげなく完璧なのである。

静かに出される芸術品のような大間のマグロぬた。炙られた旬のたけのこの匂い。箸休めのしたし豆。想い想いの時間が、今夜もゆるりと流れる。古希を超えた貫禄の三代目を「子どもの頃から知ってるんだ」と親しげに見つめる100歳近くの常連さん。芸術談義をする地元の青年たち。この店は無数のドラマであふれているのに、ヤボなものが一切ない。

酒と料理を結ぶ「用の美」を、ひたすら磨き上げて進化する。一番古いのに、一番新しくいられるということは、そういうことのかもしれない。