タイトル
お金から自由な二人 ~青年投資家 vs 自給自足の村~
著者 / 話者
梅田裕真,マサイ

お金って何だろう? お金で人は幸せになれるのか? なかなか答えの出ない究極の疑問だ。
お金は時に人の心に不安を生み出し、人と人が争う原因にもなるが、お金のおかげで人やモノが結びつき、その中で生まれるさまざまなドラマが人生と世の中をおもしろくもする。
そんなお金の魅力と魔力から自由になるため、対照的な世界を生きる二人に「お金」についてインタビューを行った。一方は莫大な金額を取引する投資の世界に飛び込み、一方はお金のいらない世界を作ろうとした。真逆の道を進む二人の話から浮かび上がってくる「お金の本質」とは?
お金にまつわる二人のおもしろい話に、しばらく耳を傾けてみよう。

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■青年投資家 梅田裕真さん インタビュー

~お金に支配されないためには~

株式投資は高校生の頃からやっていました。始めたきっかけは世の中を知りたかったからですね。元々理系だったこともあって、自分の投資活動自体に研究あるいは本を読み進めるような感覚がありました。卒業論文も心理学とファイナンスをテーマにしていたくらいですから。そして大学では投資クラブを立ち上げ、投資家として雑誌の連載企画で紹介され、大学四年生の頃にはプロの世界で自分を試してみようと思い、投資運用会社に就職した次第です。
 現在スタートアップ会社に複数出資をしていますが、自分から見て「面白いかどうか」を基準に投資し、その「面白さ」には事業や将来の社会への影響度だけではなく、社長さんの魅力や情熱なども含まれます。自分自身は起業するタイプではないと感じていまして、起業家をサポートする立場だと認識しています。そして、エンジェル投資を生業にしようとは考えておらず、投資収益についてもあまり関心を払っていません。エンジェル以外の投資活動では当然リターンの出る会社に投資をする訳で、自分にとってはその2つの投資が両立した状態が良いような気がしています。
 お金だけを持っていても意味が無く、お金を使って何をするかが大事なのだと考えています。お金だけを追求して目的の出口がないと本人の価値観が「持ってるぞ」になってしまいがちなんです。そして人間の欲は尽きない訳ですが、欲をどうやってコントロールするかが、投資家としてのアイデンティティのためにも大切なことだと思っています。これはお金に支配されるかされないかの闘いですね。例えば、投資運用会社では一日の変動幅がものすごく大きい訳ですが、それをリアルに頭で受け止めてしまうと潰れてしまいます。お金から頭を切り離さないと恐怖心も出てしまいますから。また、私自身はお金を使わない人間で、車や服装なども派手なものを好まず、投資活動でもお金自体に興味を持っていません。究極的にはお金をどうでもよいものとして位置付ける必要があるとまで考えています。その方がお金に支配されず、自由に生きられるからなんです。エンジェル投資で出資先が大きくなっても、自分の人生が何か変わるものでもありません。会社が大きくなって社会に必要とされる存在になると思って投資する――。それだけであって、お金自体を目的にしている訳ではないんです。
 私は節約を価値観として持っていますが、消費するにも「器」が必要だと思っています。過去に車や時計などひととおり良い物を揃えて買ったことがあったのですが、結局手放してしまいました。自分はそれらを身に付けなければならない人間ではない、つまり消費の「器」が無い、あっても育たないと気が付いたんですね。「器」のある人やそれを育てることの出来る人はお金を使っても価値観を変えず、それがゴールにならないんです。一方、「器」が無い状態で宝くじなどが当たって大金を手にすると、毎日お金を計算して守りながら生きなければならなくなったり。私も結局その「器」が無いのですが、「器」が無い人は分相応の使い方と分相応のお金でいいのではないでしょうか。
 私がお金を使う場合、自分にとってもお金にとっても生きるかたちで使いたいと考えています。お金を持って、そしてそれを使うともてはやされて自己評価が高まったような錯覚をする場合があるけれど、お金を持っているから価値があるのではなく、自分に価値があるという考え方を大切にしたいです。それはお金があっても無くても変わらないスタンスとも言えるでしょうか。
 物を買うかわりに旅行が好きで、最近はヒマラヤでトレッキングをしてきて、危険な秘境への旅行も好きなんです。人は不安感からお金を貯める一方で、死というリスクに自らをさらしながらロッククライミングなど危険なスポーツを始めたり夢中になったりしますが、それは投資運用のリスクの観点から見たらありえないことなんです。でも、人は疑問に思うことなく好奇心で日常には存在しない体験から様々な刺激を得ている。これは自分の中の好奇心への投資でしょうか。投資活動にすでに人生の半分を費やし、好奇心が自分の人生を今まで導いてきたようにも思いますが、そういった意味では好奇心さえあれば人は何歳になっても初めてのチャレンジをしたいと思うものなのかもしれませんね。

【青年投資家への7つの質問】
Q1 いままでで一番大きな買い物はなんですか?
 結婚式です。海外勤務していた時に日本で挙式したもので、打ち合わせに何度も飛行機に乗って海を越えなければなりませんでした。

Q2 いままでで一番失敗したお金の使い方はなんですか?
 インテリアの量販店でソファーを購入したのですが、部屋のサイズに合わなかったことがあります。でも、結局返品対応してもらえたので「失敗」にはならなかったのですが。

Q3 いまの生活で一番たのしいことはなんですか?
 妻が妊娠しておりまして、子供の成長を考える時です。それまでは、人が行かないような場所への旅行や日本の温泉へ行くことが一番好きでしたね。

Q4 いまの生活で悩んでいることはありますか?
30代をどこで、どう過ごしていくのか。色んなことにチャレンジしたい。起業している人も応援したいし、自ら出て事業をやるなんてのもいいなとか、ニューヨークで働くのも面白そうだとか、色々考えたりしてます。色んな未来を想像して悩むことも、たまにはいいものです。

Q5 いま一番欲しいものは何ですか?
 「もの」は無いです。やりたいことならたくさんあります。
旅やちょっと秘境でも冒険してみたいですね。多くのものを見て、触れて、聞いて、さらに投資家としての自分を高めたいです。

Q6 もし自分が死ぬ時、何を残したいですか?
 お金は残したくないと考えています。ただ、もし私が若く他界するならば、子供の人生の選択肢の幅を狭めないための教育資金は残したいですね。

Q7 夢はなんですか?
 グローバルな金融の世界で仕事をし、あらためて日本人であることを自覚したからでしょうか、世界的な規模で日本の存在感を上げることが夢ですね。私は日本はいい国だと思いますし、日本の文化が好きですし、それに触れたり学ばないのはもったいないと考えています。
 世界的に見た場合、アメリカなど金融が発達した国ではお金はコミュニケーションツール、そして良くも悪くも正義や文化になっていて、お金を使って世の中をよくしていこうという合理的精神や寄付文化が根付いているんですね。一方、日本人にはその感覚や価値観はない。だからどうしても日本は金融面では世界から遅れがちで、社会的に投資家の存在感も薄いのですが、私はむしろ日本人らしい投資家というものも考えているんです。社会の価値観が多様化し、日本らしい部分でのプレゼンスが高まることに少しでも貢献出来たらと思っています。
 そして、もっと個人的な夢を語るとしたら、少子化を止めるのに貢献することでしょうか(笑)。

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■ 自給自足村の「村長」 マサイさん インタビュー

~お金のない世界をつくりたかった~

私が村をつくるきっかけとなった原点は抑圧なんです。世の中や家庭での子供の頃から感じていた抑圧ですね。そして社会の矛盾や理不尽さ、それに加えてすり込まれた「正しい」とされる価値観に対する反発心です。これは権力に対する抵抗意識でもあるんですが、本当に抵抗すると世の中では悪者にされて攻撃されてしまう。そこが自分の弱さでもあるけれど、私はそこを追求することはなかった。それを跳ね返す力が自分には無いことがわかっていましたから。でも、大学生になった頃にはもう世間の価値観が色褪せて見えたんです。
 自分は何のために生まれてきたんだと考えましたよね。少なくとも人の価値観に合わせるために生まれてきたのではないんだと。それは生きていることにはならないと。ならば、自分自身で何にも左右されない生活を目指そうと考えたんですね。
 生まれてきた以上は、自分で考えて、自分で行動する――。そういうことですよね。そして生きている実感を得たかった。例えば喉が渇いた時に川の水を直接飲むような感覚です。何のために生きるかという問いに答えは無いと思いますし、あっても錯覚かもしれないんですが、生きているという感覚は錯覚ではなく「実感」なんです。人のイメージに合わせて生きるのではなく、その実感を得たいという強い思いがあった。それに、当時は何かを購入するということは支配されるということでもあると考えてもいたんですね。例えば、大工さんに家を建ててもらうことは、家を建てる喜びを奪われることでもあると。便利さとは、自分で出来る筈のことをあたかも出来ないように思わせて、つまらない仕事をさせられることなんじゃないかって。それで、自分はお金をつかわないこと、つまり自給自足の生活を目指したんです。そもそも資本主義の反対は共産主義ではなくて、自給自足だと思っていますから。それに人間が人間を抑圧するのは、抑圧する本人が抑圧されているからで、そんなものが無い世界をつくりたかったんですね。
 今では日用品や食料品、携帯電話や通信費、それに車の燃料代も稼がなければいけないから個別配達で卵を売ってお金を得たりしていますが、最初はかなり情熱を傾けて何でも自分達でやったんです。一番お金を使わなかった時期で月千円。幾ら節約しても切手代とか電話代などでそれくらいはお金が必要でしたから。穀類も野菜も育てて、ヤギも飼ったり。服をつくるために綿も栽培したり、家も自分達でつくったり。ともかく勉強して何でも自分達でやってみようと。自分達で違う価値観をつくりだすんだという思いで、それこそ明るくなる前から晩まで働きましたよ。もちろん、お金がどうしても必要な場合もあって、村の外へ出て出稼ぎをしたりもしていたし、結局お金が必要なことは理解していたんです。だけど、どこまで出来るかやってみたかった。
 結果として挫折につぐ挫折でした。無からやるわけですから当然かもしれません。そして、ある時思ったんですね。そもそも自分がやりたいことは自給自足の生活ではなくて、生きている実感を大切にしたいということでこの生活を始めたことに改めて気が付いたんです。そうしたら力が抜けてね。自分一人の力や個人の力では不可能なことに気が付いたんです。「~しなければならない」という考え方ではなくて、もっと自由な考え方に気が付いたというのかな。
 欲望はありますよ。お金を稼ぎたいと思ったりしますし、稼ごうともしています。でも、宝くじがあたればいいなんて思わないです。「欲しいけれどお金が無い。でも、手に入らない」という状態が人間にとって良いんじゃないでしょうか。得ようとしても得られないからこそ人生であり、だから持続して生きていくのであって、生きるとはそういうことなんじゃないかと思うんです。
 人と違う価値観で生きることはすごく大変なことなんですが、若い人達には自由に生きて欲しいですね。恐怖に負けないでほしい。生きるって勇気のいることだし、恐怖や不安に打ち克つことだと思うんです。怖いからお金を貯めたりもするのだけど、絶対的な安心は無いのが人生だし、「生きている」という覚悟ですよね。そして、ほとんどの人がお金の苦労や不安を抱えているかと思いますが、お金を稼いで不安を解消しようとする時、欲望が悪いかたちになって現れたりするんです。その落とし穴にも注意してほしいですね。

【自給自足村村長への7つの質問】
Q1 いままでで一番大きな買い物はなんですか?
 この土地ですね。1万2千坪の敷地で、親族からお金を借りて買ったんです。昔は原生林を伐採した後に植林していて、通勤が出来ないから植林が終わるまで山のなかに集落が自然と出来ていたんですね。ここもそんな村の一つだったんです。この土地を借りて1976年から7人くらいの仲間と村に入って、その後譲ってもらったんです。

Q2 いままでで一番失敗したお金の使い方はなんですか?
 あるとしたら服でしょうか。実際着てみると重かったり、動きにくかったりして。

Q3 いまの生活で一番たのしいことはなんですか?
 人と会って喋ることですね。そして音楽。ギターを弾いたりしてね。強迫心みたいなものが自分を不幸にしたりするんですが、音楽はそんな余分な意識を取り除くような気がします。年に一回満月祭というお祭りをやって、その時にもギターを弾いて、自分の感じていることを曲にのせて人に伝えたり。そういうふうに発信していきたいですね。

Q4 いまの生活で悩んでいることはありますか?
 朝起きた時、目が覚めた直後の不安感でしょうか。その不安感の理由が老いなのか、原発なのか、将来のことなのか自分でもよくわからなくて。体調や経済的な不安かもしれない。少ないけど年金の計算とかもするから。でも、それがあって当たり前で、それが生きることだと思いますね。

Q5 いま一番欲しいものは何ですか?
 特にないです。欲望はありますが、欲望を満たすための努力はしません。結果的に得られるものは構わないけれど、得るために何かを捨てるようなことはしないと言えばいいのかな。

Q6 もし自分が死ぬ時、何を残したいですか?
 自分の考え方、考え方のアプローチみたいなものかな。満月祭をやっているのもそのためですね。

Q7 夢はなんですか?
 それを聞かれることも答えることも心地良いことなんですね(笑)。でも、本当はいらない。「夢」とはトリックやマジックだと思っているんです。人間が魔法にかかってしまって、魔法をかけている側もかかっているかもしれない魔法。「やれば出来る」とか「夢はかなう」とか言われたりするけれど、私はそれを疑っていて。インプットされたもの、マジックだと考えています。お金もマジックですよね。もちろんまだ自分にもわからないことが多いですが、世の中のマジックを解くことが夢かな。夢がいらないような世界にするのが夢なのかな。