タイトル
家づくりのレシピ化~木造賃貸改造計画
著者 / 話者
連勇太朗,川瀬 英嗣

家づくりのレシピ化~木造賃貸改造計画

モクチン企画 連勇太朗川瀬英嗣

「モクチン企画」は若かりし慶應大学SFC博士課程の建築学生と武蔵野美術大学空間演出デザイン学科を卒業した二人の若者が作る、データとモノと空間と都市のモノガタリである。それらが個別に語られる専門性はこれまでもあったが、それらを一連でとらえることで、単なるリノベーション以上のなにかが、東京のあちこちに生まれようとしている。そのモノガタリの1つ1つを「レシピ」と呼ぶ彼らには、一体、どんな景色が見えているのか。

木造賃貸アパートこそ、ポテンシャル

モクチン企画は木造賃貸アパートを有用な社会資源と捉え再生していくことを目的としたNPO法人であり、プロジェクトです。

2009年に、現在代表理事の連(むらじ)が学部四年のとき、Archi-Commonsと呼んでいる、建築デザインを共有資源化し、アイデアを他者と共有しながら設計を進めていく方法論をプレゼンしていました。そのなかで、木造アパートのリノベーションを学生と一緒にユニークな方法でできないか、という構想を持っていた良品計画の土谷貞雄さん、ブルースタジオというリノベーション専門の建築設計事務所の大島芳彦さんと出会い、首都圏の様々な大学のメンバーからなる学生プロジェクトとしてスタートしました。現在副代表理事の川瀬は初期メンバーのひとりです。

最終的に修士論文としてまとめたArchi-Commonsは、空間を構築していくときの建築的な言語やデザインなどのアイデアをデザイナーの頭の中から取り出して、他の人と共有するための仕組みをつくる方法論です。Archi-Commons が理論だとすると、モクチン企画はその実践のひとつとして捉えています。

モクチン企画は、当初、「木造賃貸アパート再生ワークショップ」という名前で活動しており、まちの中での木賃アパートの使われ方をメンバーで調査するなど、ワークショップを繰り返す中でモクチンの社会資源としての可能性を分析していました。

木造賃貸アパートは1960年代から1990年代、日本の高度経済成長期に、東京都市部の住宅不足を背景に大量に建設された建物形式で、東京に現存しているものだけでも30万戸程あります。
しかし、それから時間が大分経って建物や設備が老朽化していく一方で、法規やオーナーの資本力などが理由となって建てかえは難しいものでした。結果的に空室率が上がって不動産業者は家賃を下げざるを得なくなり、それが入居者の質の低下として現れ、住環境として悪いスパイラルになっていました。特に、木造が密集した市街地では、地震や火事など災害時の対応などもあり、社会問題としても非常に大きい。その一方で、木造の温もりとか、街の歴史とか、そういう皮膚感を愛する若者が増えている。モノと空間、そして都市を考える上で、今、木賃アパートが「負」から「正」への大きな反転要素を持っていることに気づいたわけです。

有限な資源と検索できない気持ちよさのレシピ化

僕たちが大事にしているのは、どこにでもある間取りのパターンや窓といった日常的なエレメントやモジュールを、どうやって読み替えたらおもしろい空間にできるのか、ということです。たとえば、いわゆる作家的な開口の大きい窓をドンと開けるのではなく、床から40cmくらいの高さにある窓を利用して、収納と窓際のベンチをかねた家具を備え付ける「まどボックス」というレシピがあります。実際にそれが施工されたあるアパートでは、気持ちいいのでみんなその窓際に座るんですね。そんな風に大量生産された規格のあるエレメントを、建築的な知恵を使って蓄積された資源として読み替える。それによって、賃貸住宅を探すときに、検索する条件にはできないけれど実際に住むときには重要になる、立体的な、身体的な気持ちよさをもった魅力的な空間をつくり続ける方法を日々考えています。
だから個々のレシピについては、自分たちで判断してパッケージングしていますが、100%オリジナルのアイデアというよりは、コンテクストや既にある手法が必要であれば利用する、二次創作的なものであるとも言えます。

コミュニケーションが言語をブラッシュアップし、他者の要望がエコシステムをバランスさせる

モクチンレシピ自体はエコシステムとして、施工を繰り返すことで精度もあがっていきますし、大家さんの要望や評判によって常にレシピは更新されていきます。ウェブ会員である地元密着型の不動産会社や工務店と対話を重ねながら建物をひとつひとつ改修していくこともできますし、自由に工夫して使ってもらうこともできます。

現在、借り手の側にリーチするプロジェクトもありますが、ビジネスとしての軸足は貸し手側にあります。内装だけなく外構のアイデアも含めて提案していて、ただ単に部屋の中をオシャレにして住み心地がよくなればいい、ということではなく、常に周りの文脈や都市空間の関わりのなかでそのアパートの存在意義を考えて提案をしています。

改修したアパートの主な入居者のターゲットは20代から30代の比較的若い人たちです。その場を維持していくためにはソーシャルミックスと呼ばれるさまざまな年代や属性を持った人たちが住んでいることが重要だと考えています。また、街全体の更新と言ったときに、作家が一人でやる、という方法ではなく、不動産、工務店、居住者など、あらゆる立場の人がそれぞれにできることをやっていくことが重要で、そのための方法をモクチンレシピによって提供したい。なので一つ一つの案件を丁寧にやっていく一方で、ある程度、数をやっていくことに意味があると思っています。

僕たちはデザインの教育を受けてきたので、すべてをデザインしきりたいという美学的な欲求は常にあります。一方で対象は賃貸なので、住む人たちの大半が持っている、たとえばキッチンは普通がいい、リビングは普通がいい、クロスの張り紙は花柄がいい、というような「キッチュ」な、ある種「普通」な要求があります。どうやったら建築デザインとしての価値や面白さとクライアントの要求をバランスさせながら、新しい時代に向けてモクチンアパートをアップグレードすることができるのか。みんなが使えるレシピを作り続け、公開しつづけることで、「その地域や生活空間の魅力を多様な人々が木賃アパートを通して享受できる」というような、東京の昔と未来が出会うモノガタリができれば理想的ですね。