タイトル
ぼくが動物だったころ 第三夜
著者 / 話者

第三夜
吉田悠軌
Yoshida Yuki

酒について考えるとき、重要なのは、アルコールという物質や、酒そのもの、であるのは間違いないんだけど、やっぱり酒を飲む場所ってのも無視することはできないだろう。
ぼくの場合、それは通勤するかのように通っていたゴールデン街のいくつかのバーであったり、かつて住んでいた東京世田谷区経堂の焼き鳥屋・鳥へいのような店だったりするんだけど、酒を飲む場について考えてみても「正しさ」や「面白さ」を掘り下げるヒントが出てくるかもしれない。
そう考え、ぼくの大学時代の友人でもあり、オカルトスポット探訪マガジン『怪処』を発行・編集し、「場」について独自の考えを持っている吉田悠軌さん(以下、友人のため「吉田くん」と表記)に話をきいた。

2013年3月16日深夜、
吉田くんに指定されたインタビュー場所、
ジョナサン中野坂上店。
514円(税込)の「焼酎+ドリンクバーセット」を注文しおえた32歳の男が3人。

大里:今号は、雑誌全体のテーマが「正しさ」と「面白さ」で、そのテーマのもと「酒、アルコール、酒場など、酒関連」についていろいろ話を聞きたいなと思ってるんだけど。

吉田:そういう意味だったら…
「ファミレス=最強の居酒屋」説
大里:笑
吉田:ジョナサンだったらこれ(焼酎+ドリンクバーセット)、サイゼリアだったらワインがはっきりいって「やまや」で買うくらいの値段で飲めるんだよ。

大里:コスト的には家飲み感覚なのに外で飲める。ってことなのね。
吉田:そうそうそう。

大里:あ、写真とらせてもらってもいいですか?
吉田:いいよ。じゃあ、(酒を)入れてきたほうがいいんじゃない?

ドリンクバーへ向かう。

大里:そのお茶とか持ってきてる感じ。明らかに馴れてきてる感じがしてるんだけど(笑)
吉田:まあね。まずは炭酸水でチューハイを作って、喉の渇きを潤して、あとは韃靼そば茶のお茶割り。
その路線で話すの?
大里:はい。それでお願いします。
というか、そのコスト的に家飲み感覚で外でっていうのは、ファミレスでしか成立しないんですか?
吉田:まあ、チャージがなくて、別にフードも一品も頼まなくてもたぶんペナルティないでしょ?居酒屋だったら、ワンフードワンドリンクは頼まなきゃいけなくて、頼まなかったらその分はお金とられるけど。ファミレスのほうが普通の居酒屋よりコストパフォーマンスはいい。この時間(深夜)だったらうるさくないし、あと長居できるでしょ。
たぶんおれもファミレス全部調べたわけじゃないからあれだけど、ジョナサンとサイゼリアが2巨塔。
他のファミレスとかだとアルコール出してないんじゃない?あ、ビールくらいか。でも1杯いくらで居酒屋と一緒だから。安い居酒屋と比べたら割高だし。これ(焼酎+ドリンクバーセット)なら、焼酎のミニボトルがついてるから、割って3杯、4杯分以上くらいあるんじゃない?普通の居酒屋の。で、好きに割れるわけでしょ?

大里:最強ですね(笑)
吉田:最強は言い過ぎだけど(笑)
大里:でも最強ってさっき言ってたじゃないすか(笑)
吉田:いやわざと(笑)
大里:でもビールとか頼もうと思ったことはない?
吉田:頼もうと思ったことすら無い。いくらすんの?
大里:ジョッキ500円。高いよね。
吉田:まあ、普通の居酒屋の値段だよね。
大里:もっと安い居酒屋いっぱいあるよね。
吉田:うん、ある。

大里:で、よくファミレスでは飲んでるの?
吉田:一人で飲む時は家飲みだから、誰かとしゃべる時で。なんか、金使いたくないときは、じゃあジョナサンかサイゼリアでいいよ。って。
大里:それは結構よくあるの?月に一回とか。
吉田:そうだねー、飲みに行こうってテンションでここ(ジョナサン)に来るとがっかりするから、相手もそうだし、俺もそれはやりたくない。あんまり飲みに行くってテンションでもないし、腹も減ってないし、でもまあしゃべるんだったら酒いれたいなって時は、ファミレス。
大里:ファミレスって、居酒屋とかバーとかとは空間としては違うじゃないすか。酒は安くても。どういうときに利用します?

吉田:居酒屋は安いとうるさいから、うるさいのは嫌で。静かだけど安いところを探そうとしてるわけね。あんまり居酒屋のがやがやした雰囲気は好きじゃなくて、ファミレスだと安いのに静か。びっくりする。

大里:まあ、会計して3人で割ったら1人500円ですって居酒屋は存在しないってことね。
吉田:しないねー。まあ、立ち飲みだったら別だけど。

大里:ワイン(サイゼリア)を選ぶ時と、焼酎(ジョナサン)を選ぶ時は、とくに違いは?
吉田:なんにもない。立地だけ。ここ(中野坂上)はたまたまジョナサンとサイゼリアが隣同士にあるけど、まあ、そっちのほうが珍しいじゃん。たまたまジョナサンがあったらジョナサンでいいし、サイゼリアがあったらサイゼリアでいい。

大里:じゃあ、かるく飲んで話したいなってときは、まずはジョナサンかサイゼリアを探すと。
吉田:いや、探すってテンションでもなくて。あったから行くっていう。

大里:さっき「最強」って言ってた意味としては、コストが安いと。

吉田:その点を求めてるなら、その点に関しては最強だな。

大里:ちょっと話は違うんだけど、普通記事を作る時って、ゴールイメージがあって、そこに向かうため、質問で誘導したりするんだけど。今回はそういうことをしないんですよ。なんでかっていうと、着地点がないからなんだよね。で、この着地点がない感じだから、どうしたらいいんでしょうって状態になっていて。この記事どうしたらいいと思う?

吉田:もし俺がやるなら。すごくありきたりなことでいうと。どうするっていったら、まずは「ファミレスが最強の居酒屋だ」って見出しをつけて、「え?」って思うわけじゃん。で、まあ、その理由を書いて、結局「最強」って言ってるけど、このニーズに関してはって尻つぼみにはなるけどね。
見出しでは大上段で言っちゃって。いちおう利用もしてるからそれなりの愛情もあるわけじゃん、居酒屋としてのファミレスに。そういうのを書いていく。
大里:愛情っていうのはどういう愛情?
吉田:まあたぶん、あんまりみんなそういう風には利用してないから。っていう。
大里:俺はこういうふうに使ってるっていう思いがあるわけだ。
吉田:みんなは普通にテーブルとして使ってて、ちょっと嫌気がさしてるっていう。この空間で飲んでるという背徳感っていうのもあるじゃん。ファミレスで飲んでる。っていう。もちろん俺だけがやってるわけじゃないのも知ってるし、おれも教えてもらってやってるだけなんだけど。俺もゼロから発見した訳じゃなくて。だから、それをやってる人は少ないっていう、嫌な言い方をすれば優越感みたいなものと、背徳感っていうのは一緒のものなんじゃない。
大里:それは「正しい」ファミレスの使われ方じゃないってこと?
吉田:本来のファミレスの使われ方をしてない。ってところで。「正しい」「正しくない」ってことだと、別に正しくないとは思ってないけど。ルールを破っているわけではないし。まあ、浅い意味の「正しさ」って意味だと正しくない。
大里:醤油差し器を灯油差し器として使ったら、意外と良かったみたいな。
吉田:そうそうそう
大里:たぶん、「正しさ」にもいろいろあって、誰にとっての「正しさ」か、どういう瞬間の「正しさ」かみたいな。小学生が言うような「正しさ」があって。結構その辺の曖昧さを含めて、この使い方が正しいかどうかって考えたいんだけど。いま話してもらったことを記事にする時、このファミレスを居酒屋として、それも「最強」の居酒屋として使っているという面白さについて、正当に評価されたり、理解してもらうってことを求めるのであれば、さっき話してもらった「見出しでどーん。それから、中で説明」っていうのが「正しい」とは思うんだけど、もうちょっと読んだ人がもやもやした感じがするような展開にもっていきたいんですよ。もやもやした感じとか、消化不良な感じとかを残したいんですわ。
そういう場合はどうすればいいと思う?
吉田:そういうことだったら。。。本当の究極の居酒屋がもう一つある。実はファミレスは究極じゃない。本当の究極がある。
大里:何なんですか!?(笑)

吉田:駐車場。
一同:笑
吉田:ここよりさらに安い。場所代もかからない。
大里:コインパーキングである必要はあるの?ガードレールに座ってとかじゃダメなんだ。
吉田:ダメ。
大里:なんで?
吉田:ガードレール、うるさいじゃん。空気も悪いし。言ってみれば、コンビニとかディスカウントの酒屋で買ってきたのを飲む。別にみんなで。
大里:公園じゃだめなの?
吉田:公園でもいいんだけど、公園だと人に迷惑かかるから。神社とかお寺でもいいだけど、やっぱ悪いじゃん。モラル的に。
吉田:なんで駐車場なんだって理由は、俺が前から思ってることがあるんだけど、まあ街のなんにも使いようのない空虚な場所が駐車場になる。駐車場っていうのは街の空虚な場所。
大里:もともと何の使いようもない場所をどうにかして使おうとした結果が駐車場だってこと?塩漬けの土地とか、区画整理の途中でとか。
吉田:外で弁当とかを食う場所を探してる時に、どうしてもどこにも見つからないと。公園でもいいんだけど、公園すらないときに、駐車場で食ったりしたこともあるんだ。なんで、駐車場だと弁当食っていいと思うんだろう。とか。
大里:駐車場だと許される感じがある。と
吉田:なんかあると。なぜだろうって、まずは弁当から入ったんだよ。なんで、おれは駐車場で弁当を食うことを選んだんだろうって。そのあと、だったらここで酒のんでもいいよな。って。
なんで許されると思ったんだろうって気持ちを突き詰めていくと、さっきのデッドスポットみたいな。あと、タバコを吸ってる人も多い。駐車場。だいたい路上喫煙禁止じゃん、今は。でも、駐車場だと許されるみたいな、吸っていいみたいな。ポイ捨てとかしちゃう人も多い。なんか、ファミレスともつながるとは思う。ファミレスには、みんな何か目的を持ってきているわけじゃないからかも。夕飯時に家族がメシ食いに来てたりとか、昼間に会社員が打ち合わせにきてるっていうのとは違って、深夜にこういう風にダラダラしてる空間ってのはデッドスポット感がある。『THE三名様』みたいなことでしょ。

大里:ちょっと質問を変えて、「正しさ」人のまわりに張っている膜のようなものなのかなーって思って、酒を飲むことによってそれが溶けたり敗れたりして、その膜の中の「自分」が他人の「自分」と混ざり合う。中にあるドス黒いものとかが溶け出ちゃうことがある。そういう膜を溶かすような経験ってありますか?

吉田:普通にある。
大里:吉田くんがやってる『怪処』をつくるときって、そういうことって。
吉田:膜を取っ払うために、酒っていうのはやりますよ。あとは、鍋を一緒に食う。温泉行く、一緒にお風呂入る。
大里:それの使い分けとかあるんですか?
吉田:ない。だから、体液を交換するってこと。セックスと一緒でしょ。
大里:(笑) 話が、良い意味で狂ってるな(笑)
吉田:セックスはかなりラディカルな方向ではあるけど。全く同じ事でしょ、日本の文化で。鍋とか一緒に風呂はいるのと、酒飲むのって、共同体のチカラを強くするために。だから、それは『怪処』をつくるときにも意識する。なるべくやったほうがいいなって。

大里:いま飲まないひとが増えてるけど、良くないって思ってる?
吉田:別にお酒以外でも、いまいったようにいろいろあるんだから、なんらかのカタチで。全くなにもやらないのはどうかと思うけど、それでも僕はできますよ、っていうんなら。悪いとかは思わない。

大里:酒も飲まない、鍋も食べない、温泉も嫌いって人がいたら?
吉田:まあ、セックスするか(笑)、ストレートにぶっちゃける。懐に入ってインファイトしてみてどうなるかなーって、試してみる。
大里:という風に考えるとお酒っていうのは距離感を縮めるためのものであるっていうのは言えるわけだ。

吉田:いまの新宿の思い出横丁。思い出横丁って名前で呼びたくなかったからずっとションベン横丁って言ってたんだけど、5-6年くらいまえにトイレが改装して、そこから俺は思い出横丁って呼ぶようにしたんだけど。なんでっていうと、あそこのションベン横丁って、あそこだけじゃなくて、全国にあるんだけど。なんでションベン横丁っていうかっていうと、小便用のトイレがただの壁なの。溝が下にある。共同トイレだから、酔っ払って、別の店で飲んでた人が隣にいる。3人くらい、一緒に飲んでる訳じゃなくて、その便所で横に並んでるだけなんだけど、そのままションベンすると体液がまざりあう。溝で。だから一体感がある。ションベン横丁っていう名前で呼んだのは、なんらかの思い入れのがあったわけで、そのいち要素として、そういう光景があったはず。でも、トイレが改装されて、普通のビルよりもキレイなトイレになった。だから、「思い出」横丁の方が名で表してると思って、思い出横丁って呼んでる

大里:体液の交換。という点で、酒の飲むことと他との違いってあるよね?
吉田:ちょっと別だよね。酒は物理的に体液を交換しているわけじゃないから。鍋とかは、わずかだけど唾液の物理的な交換を行なって、それが精神に影響するんだけど、酒はまず精神的な膜が取っ払われて、ってことかな。
大里:それはアルコールの効果でってこと?
吉田:麻痺させるということではそう。リーガルドラックを共同体の結束のために使うっていうのは、酒以外でも南米とか、世界でもやっていること。酒が一番作りやすいとか使いやすいから、普及しているんだろうけど。鍋と一緒に酒飲んだりできるし、相性もいいよね。トイレ一緒にいったりとか。
大里:温泉行って、鍋やって、酒飲む。って最強ってことね。
吉田:だから慰安旅行とかいくわけだよね。