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3Dプリンターがデフォルトになってから、本当の闘いがはじまる
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3Dプリンターがデフォルトになってから、本当の闘いがはじまる

株式会社カブク 代表取締役 兼 CEO 稲田雅彦
2009年東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院で研究の傍ら人工知能や3Dインターフェースを用いたメディアアート活動を行う。同年、博報堂入社。主にデジタルクリエイティブの分野で活躍。フラットになったコンテンツ製作の世界で、YouTubeやニコ動に出現する天才的なクリエイターたちと闘う。2013年、博報堂退社後、株式会社カブクを設立。3Dプリントものづくりマーケット「rinkak」を皮切りに、フラットになっていくものづくりの世界に、新たなプラットフォームを提供していく。

よく勘違いされるのですが、3Dプリンターだけがデジタルによるものづくりの技術ではないんです。素材を積み上げて無から有を作り出す、足し算をしてものをつくる製造方式で立体を作るのが3Dプリンター。素材の塊から形を削り出す、引き算をしてものをつくる製造方式がCNC(Computer Numerical Control)の工作機械やレーザーカッターです。3Dプリンターの中にもいくつか方式があり、樹脂を高温で溶かし積層させてものを作る熱溶解積層法=FDM(Fused Deposition Modeling)、樹脂粉末にレーザーを照射して形を作るレーザー焼結法=SLS(Selective Laser Sintering)などがあります。FDMの基本特許は2009年に切れ、SLSの基本特許も2012年の2月に切れたので、一気にツールの価格が下がります。これからますます3Dプリンターの価格は安くなり、2Dプリンターがたどったように、一般に普及していきます。

これらの製造方式はいずれも大量生産のメリットは少なく、一点モノを作るのに最適な技術です。実際のものづくりの現場では、金型を作るとコストが見合わないような小ロットの製品、例えばコンセプトカーや飛行機のコクピット、建築模型、義歯や義足など製造業分野や建築分野、医療分野で主に使われています。その技術が個人レベルにまで降りてくることで、ものづくりのハードルが下がりますが「量産型ザク」のような均一で高機能な量産品は、まだ大規模な生産ラインを持つ企業に軍配が上がります。今の3Dプリンターは、製品の大きさとロット、コスト的な制約があり、まだ外側の「かたち」しか作れないという制約がある。これがいまの状況です。

その一方で、3Dプリンターはデジタル製造ツールの可能性をユーザーに示し、ハードウェアの世界に個人が入り込んでいく扉を開けました。あと5年もすれば、いままでハンダ付けで作っていたような電子回路の基盤も、素子をインクジェットで吹付けるプリンターを使って誰もが短時間で作れるようになります。モデリングによる「かたち」と電子回路のような「中身」がいっしょに作れるようになると、もう家電が作れる。そして、デジタル製造ツールとハードウェアの中身がオープンソース化されることで、もっと大きくて複雑なもの、例えば家や自動車すらも個人で作れるようになる。すでにコンクリートで家をプリントするプロジェクトや、オープンソースで自動車を作るプロジェクトが進んでいます。数クリックで自分だけのオリジナル自動車が作れる、そんな未来がすぐそこまで来ています。

ツールを手に入れるということは、自由を手に入れるということです。アメリカでは国家戦略としてデジタル製造ツールの普及を行っており、オバマ大統領は全国の小学校に3Dプリンターをものすごい勢いで設置させています。いままでソフトウェアで起こった変化が、これからハードウェアの世界でも確実に起きるのです。幼い時からパソコンに触れてプログラミングを覚えた若者の中から、Facebookを起業したザッカーバーグのような「パソコン一台で世界を変えてやる」というパンクな若者が出てきて、実際に世の中が変わってしまった。これからはモデリングで世界を変える若者たちが出てきます。プログラミングができてモデリングもできれば、もうほとんど全てのものづくりができる。MITの優秀な学生なら、3Dプリンターで出力をした筐体と電子回路にソフトウェアを組み込んで、自分でiPhoneのようなガジェットを作れますし、扇風機のような簡単な構造の家電なら、筐体とモーターをアセンブルするだけですぐに自作できます。

メディアで騒がれている3Dプリンターは、あくまで数あるデジタル製造ツールのone of them。ものづくりのデジタル化の本質はそこにはありません。3Dプリンターはその入り口にしかすぎない。すでに私たちの身の回りには、デジタルで作られた製品であふれています。大規模なメーカーの製造ラインの多くはデジタル化されており、AppleのMacBook ProやMacBook Airの筐体はCNCを使って作られていますし、電気自動車のテスラモーターズの製造工場はデジタル制御された産業用ロボットが並ぶ、オートメーション化が極めて進んだ工場です。将来的には彼らのクローズドな製造ラインすらオープンにして、個人のネットワークに直結させて「シャア専用ザク」をみんなで作りたい。あらゆるデジタル製造ツールとファクトリー、製造方法が個人レベルにまでオープンになって、ものづくりの世界がプロもアマもないフラットな状況になった時、頭の中にあるアイデアを敢えて「モノ化」する意味が問われてくるし、真のクリエイティビティが問われる。そこからが本当のものづくりの闘いです。