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菜園ティフィック! 農業から工業へ、農業から野良へ
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菜園ティフィック! 農業から工業へ、農業から野良へ

ぼくたちは何を食べているのか?
食の安全への意識が高まり、どこでだれが食べ物をつくっているのか、農業への関心も高まっている。戦後、日本人の食生活は和食から洋食へうつり、それとともに輸入食材が増え食料自給率も下がっていった。食料自給率は1965年の73%をピークに、2011年では39%にまで減少、農業従事者も1960年の1454万人をピークに、2012年には261万人に減少。平均年齢は65歳、一般企業だと定年退職する年齢だ。
高度成長期を境に農業は儲からないと、若者たちが農村を離れていった結果だが、ここにきて新しい農業に取り組む人たちも増えてきた。外食が増え、西洋化する食事に合う農作物を、生産効率を突き詰めることでリーズナブルかつ大規模に供給するための「工業化」へ向かう農業。一方は自分の価値観や生き方の延長として農業を選び、地域や自然環境を第一に考えながら、自分たちの手の届く範囲で農作物を育てる「野良化」する農業。消費者の安心と安全に応えながら、農業の付加価値も高める。いま農業は第二次産業と第三次産業を巻き込みながら、工業化と野良化という二つの道を進んでいる。

仙台のみちさきのトマト

工場面積:28,000㎡(2.8ha)
トマト栽培面積:11,664㎡
品種:サイゼリヤオリジナル、アニモ、カンパリ
出荷量:年間330t

オランダ製の広い建屋のなかにイスラエル製の生産ラインがずらりとならび、室内環境と生産状況はすべてコンピューター制御で集中管理。これは電子部品の工場の話ではなく、仙台市沿岸部に2013年にできた、株式会社みちさきの養液栽培野菜工場の話だ。
屋内に土っぽさは一切なく、衛生管理が徹底され、土や外気に触れないので病気や害虫の発生も少なく、農薬の量も減って人にも優しい。栽培されているトマトの根元には、暖房用の温水チューブと養液のチューブが這い、濃度や流量はパソコンの画面で細かく調整される。室内の日差しや温度と湿度もカーテンと換気扇、ミストの噴射で最適に保てる。高い天井からは白いロープが吊るされ、トマトのツルが一斉に伸びる。露地では栽培できる高さに制限があるが、ここでは高さ4メートルまで茎が伸び、収穫が終わった茎を巻き取りながら長さ15メートルまで成長する。一つの苗で半年間、安定して収穫しつづけられる。こうして大量に収穫されたトマトは、レストランのサラダバーや、スーパーやコンビニのサラダとして並ぶ。
おいしくて安心できるきれいな野菜を1年中食べたい。そんな消費者のワガママは最先端の農業によって支えられている。

飛騨の長尾さんのトマト
面積:2000平米
品種:ミニトマト(あまこ/ピッコラカナリア)、大玉(ももたろうサニー)
生産量:約15,000kg(7月末〜10月末の収穫期)
堆肥量:5t

飛騨かわい牧場の堆肥
堆肥生産量: 300t
牛の頭数:350頭

飛騨の林業

間伐材

飛騨製箸
箸生産:5万膳/日
オガコ生産:80〜90㎥/月

おがくず 割り箸の副産物

吉祥寺タイヒバン(LIPコンセプトストア)
メニュー:ビーフ、野菜、ワインなど

間伐材と黒毛和牛でトマトが甘くなる?
一見なんの関係もなさそうなものが、つながりあって循環することでうまく回るという例が岐阜県の飛騨地方にある。若干20歳で単身新規就農した長尾さんは、特別な乳酸菌入りのエサを食べた和牛の糞と、間伐材で割り箸を作る際に出てくるおがくずをまぜた堆肥を使ってミニトマトを育てている。そのミニトマトが「ありえない甘さ」と東京の吉祥寺で評判になっているのだ。
もともと飛騨は林業で有名だったが、安価な輸入材に押されて衰退。間伐がいき届かなくなった荒れた山は土砂災害の原因にもなっており、その山を間伐材で割り箸をつくることで蘇らせようという会社できた。一方で飛騨牛の生産牧場が地域から苦情のあった牛糞の臭いを抑えるために特別な乳酸菌入りのエサを食べさせた。そして割り箸の副産物であるおがくずとその臭わない牛糞を混ぜて堆肥を作ったところ、美味しい野菜ができると農家で評判になった。そして吉祥寺のレストランは、その飛騨の牛と野菜を使って料理を作り、間伐材の割り箸でお客さんに食べさせる。そのお客さんがおいしさの理由を口コミやSNSで発信することで、飛騨の認知度が上がり、地域活性にもつながった。
野良という字は「野に良くする」と書くが、地域の環境を良くしようという取り組みが産業の壁を超えてつながり合い循環することで、トマトもおいしくなるし、環境も守られる。農業が進むべきもう一つの道がここにある。