タイトル
0→1→100万 新しい「1」の作り方 オープンランドセルプロジェクト

神奈川県鎌倉市にある「ほぼあらゆるものをつくるオープンな市民工房」FabLab Kamakuraでは、鎌倉市にいる職人さんの持つ職人技とデジタルファブリケーションを組み合わせたユニークなプロジェクトを数多く行っている。デザインユニットであるKULUSKA(クルスカ)と、慶應義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也の共同プロジェクト「オープンランドセルプロジェクト」も、そんなプロジェクトの1つだ。
クラフトが進化することで、使う人のカラダや美意識に沿った100万通りのランドセルはできるのだろうか?

クラフトとデジタルが出会うとき
デジタルファブリケーション(デジタル工作機械を使ったものづくり)によって、クラフトの世界にも変化が起きつつある。
「誰でもつくれるものづくり」をビジョンに掲げるKULUSKAは、向川彩と、藤本直紀によるデザインユニットだ。彼らは、「誰もが簡単につくれるものをつくる」「つくれる人をつくる」「仕事をつくる」の3つの考えをもとに活動を進めている。
そんな彼らが、FabLabと出会ったのは「SLOWLABEL」というプロジェクトで、レザークラフトでつくった「サンダル」を、レーザーカッターを使って製作しようとFabLabに相談したのがきっかけだったという。FabLabはデジタルファブリケーションで、ほぼあらゆるものをつくるためのオープンな市民工房だ。レザークラフトでは、型紙に合わせて皮を切ったり、穴をあけるのが難しいとされているが、レーザーカッターを使って革のサンダルを製作した際に、レーザーカッターとレザークラフトの相性の良さに気がついた。レーザーカッターを使えば、これまで複数の道具を使って、別々に行っていた「焼き印」「切り抜き」「穴あけ」が1つの工作機械で1度で加工することができるのである。
このレーザーカッターでの体験がきっかけとなって、KULUSKAは「データでのものづくり」を行うようになっていく。

オープンランドセルプロジェクト
「データでものづくり」をすることで、これまでのレザークラフトでは難しかった「サイズの変更」や「自分の体に合うように形を改変すること」が非常に簡単になったことに気がついた。
しかし、そうしたカスタマイズができることと、誰でも簡単にカスタマイズができるようになることの間には大きな隔たりがある。KULUSKAは、この隔たりを埋めるためのアプリケーションを開発することで、誰もが「型紙」の改変を簡単にできるようにするべく、協力者を募った。そこで手を上げたのが田中浩也准教授だった。まずはプロジェクトでリュックを作ろう、という話になり、オープンランドセルプロジェクトが始まった。
このプロジェクトでは、KULUSKAが元になるランドセルの「型」をデザインし、その型を改変するためのアプリケーションを田中さんが開発するという職人とエンジニアのコラボレーションが起こっている。デザインの「型」をデザインする際には、誰もが針と糸だけで簡単につくれるように気をつけているという。ランドセルの型となるデザインは、昔のヨーロッパで使われていた学生カバンをイメージしている。どこか趣がありながらも機能的なデザインは、使う人の体や用途に合わせて簡単にカスタマイズできるため、パーソナルなデザインが使う人の数だけたくさん生まれていく。また使い手自身で針と糸を使ってつくることで「つくり方」や「修繕方法」を自然と学び、手を加え、価値を増やしながら、永く使っていくことが可能となる。誰もが簡単につくれるようにデザインされたプロダクトの「型」を公開して、カスタマイズし、1人1人にあったプロダクトをつくるという流れは、まさにメタデザインの典型的な事例であり、さらにクラフトとデジタルというこれまで相容れなかった2つのコトが有機的に結びついた事例ということができるだろう。
現在はこのプラットフォーム上にランドセルの他にサンダルの型が用意されているが、今後はアイテムの種類をもっと増やしていきたいとKULUSKAの藤本さんは語る。
オープンランドセルプロジェクトでは、個々のプロダクトをデザインするだけには留まらず、もののつくり方の「仕組み」自体をデザインしているのだ。
今後KULUSKAはプロダクトの販売、パーソナルオーダーの展開、レザークラフトキットの販売、ワークショップ•教室の企画運営を精力的に行っていくとのことだ。オープンランドセルプロジェクトも、公開に向けて準備を進めている。クラフトとデジタルファブリケーションの融合が生み出していく、新しい「1」のあり方に今後も注目していきたい。