タイトル
人の時間を盗む『没入感』とは?
著者 / 話者

『広告|恋する芸術と科学』特集|非言語ゾーン|言葉にならない感動が世界をつくっている 2014 年1 月号収録

人の時間を盗む『没入感』とは?

浅川希洋志[法政大学教授]


フローとは何ですか?
浅川|フローとはアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、「内発的に動機づけられた、時間感覚を失うほどの高い集中力や楽しさ、没入感覚で言い表せるような状態や経験」のことを指します。

フロー状態に入りやすい条件とは?

浅川|まず「活動の難しさ(挑戦)と自分の能力がうまくつりあっていること(挑戦のレベルが、自分の能力より『ほんのちょっとだけ』高いこと)」が挙げられます。活動が難しすぎれば不安を感じ、易しすぎれば退屈を感じます。あとは「活動の目標が常にはっきりしていること」、「すぐにフィードバックがあること」が必要です。例えばテレビゲームでは、最初はプレイヤーのレベルは低いところからスタートします。上手くなれば、レベルも上がっていきます。つまり、挑戦と能力の最適なバランスで、ゲームが進んでいくということです。そして、「敵を倒す」、「早くゴールする」といった明確な目標が常にあり、自分がいかにそれをこなしているかが、点数やレベルとして直ちにフィードバックされます。フロー状態に入りやすい条件が整っているわけですね。

人間にとってフロー状態にはどのような意味があるのですか?

浅川|この世界に生物体として生まれてきたからには、生き延びていかなければなりません。ですから、自分の能力を高めていくことが求められます。そして、能力を高めることに対してポジティブに働く仕組みが、おそらく生物学的なレベルで、私たちには備わっているのではないでしょうか。それが、フローのような楽しさだと思います。また、フローは「充実感」や「生きがい」をもたらします。このことに関連して、「燃え尽き症候群」の子供たちが、テレビゲームに1日4時間から7時間も費やし、「テレビゲームだけはやっていても疲れない」と言うような臨床の現場からの報告があります。この子どもたちはテレビゲームをすることで、自分の能力を一杯に使っているときの、“生きている”という感覚を味わっているのではないでしょうか。

「フロー状態に入りやすい人」はいるのでしょうか?

浅川|フロー理論では、そのような人を「オートテリック・パーソナリティを持つ」と言います。そのような人の傾向として、ひとつには「能力を必要とする場に自分を置こうとする」ことが挙げられます。その他には、「人間の限られた情報処理能力を、分散させることなく、ひとつのことに向けることができる」ことがあるように思います。

これから「オートテリック・パーソナリティ」を身につけることはできますか?

浅川|「周りの人の評価を気にするのではなく、自分がやるべきことに集中する」という意識の変化が有効かもしれません。フローをくり返し経験することで、これを訓練することができると思います。まだちゃんと調べた訳ではないのですが、日本人は欧米人に比べてフローを経験する頻度が少ないのではないか、と感じています。欧米人に比べて日本人は自己批判傾向が強く、その強い内省傾向の現れと考えています。

フロー理論は、どのようなところに活かされているのでしょうか?

浅川|トップアスリートの育成や、学校教育に応用されています。楽しさを通して人は成長していくということですね。また最近では、ビジネスのスキルアップやクリエイティブな職場環境をどう構築するか、更には「乗っていて楽しい車・バイク」などの商品開発にも用いられています。