タイトル
これを読めば勝てるかもしれない!?ヤングカンヌ徹底レポート
著者 / 話者

60周年のアニバーサリーイヤーを迎え、大盛況で幕を閉じた今年のカンヌライオンズフェスティバル。しかしその華やかな祭典の裏で、「若手クリエーターのカンヌ」と言われる“ヤングライオンズコンペティション”が今年も行われていたことをご存知だろうか!?
今回、今年のヤングカンヌコンペティション2013メディア部門の日本代表として参加した博報堂ケトルの畑中翔太と博報堂DYメディアパートナーズの陶国直孝が、これまでいわゆる“ブラックスボックス”となっていた現地で行われたヤングライオンズ本戦の全貌を、ブリーフィングから結果発表までの全てを当時のタイムラインと共に徹底レポート。
数日間を戦ってみて感じたこと、これだけは言っておきたいことを、今後ヤングライオンズ本戦出場を目指すクリエーター、また代表として本戦で戦うクリエーターのための“ヤングカンヌ・バイブル”としてここに残す!!

<What’s YOUNG LIONS COMPETITIONS??>

『ヤングカンヌコンペティション』とは、世界中から各国代表として選ばれた28歳以下の若手クリエーターたち(2人1組)が、カンヌ開催期間中に課題を与えられ、制限時間内(1日~-2日間)に決められた成果物を提出するという、セミナーやスクリーニングとは異なるカンヌ恒例の行事。ヤングカンヌコンペティションには全部で、フィルム、プリント、デザイン、サイバー、メディア、マーケティングの6部門があり、カンヌ開催期間中を通じてその戦いが行われる。
まず初めに、今回残念ながらメディア部門において日本チームは勝つことはできなかったことを告白しておく。その意味でこの記事は、「ヤングヤングライオンズに勝つための必勝法」ではなく、「ヤングヤングライオンズをありのまま知り、勝利へと近づく水先案内」と言った方が適切かもしれない。本戦を戦って感じた素直な思いを綴っていくため、その受け取り方は自由に、将来のヤングカンヌ予選&本戦の参考にしてほしい。

またヤングヤングライオンズにおけるメディア部門について説明しておくと、ヤングのメディア部門自体には詳細な定義はない。強いて言うなら「メディアを利用した課題解決ソリューションの提案」。エージェンシーによるアウトプットのほとんどがメディアを活用したものだと捉えると、メディア部門=“統合キャンペーンプランニングの提案”と言ったほうが近いかもしれない。ルール上の規定としては、カンヌ側から与えられた課題に対して、そのソリューションを10枚以内のPowerPoint資料にまとめ提出。そして最終的にメディア部門審査員の前での5分間のプレゼンテーションによって順位が決定される。
そのルールに乗っ取り、3日間かけて行われたメディア部門本戦のタイムラインを以下に記述していく。

TIMELINE REPORT OF YOUNG LIONS

1日目(ブリーフィング日)

■11:00 トレーニング

ヤングカンヌ初日。午前11時に“ブリーフィング&トレーニング”という名目でカンヌ会場に集合。時間前から会場には全26ヶ国の代表が続々と集合。出場者はヨーロッパを中心として欧米系が6割、南米系が3割、日本を含めたアジア系が1割といったところ。欧米グループなどは待合い場所で既に互いに仲良くなっている集団もあり、我々アジア勢は少々萎縮。時間となりカンヌ事務局のスタッフが登場。それぞれの自己紹介などはなく、コンペでの使用素材となるGetty imagesの使い方、PC操作のルール、作業場所の説明のみが15分程度行われた。

■12:00 ブリーフィング

その後、12時となりクライアントが入室。そして今回の課題となるブリーフィングがスタートした。クライアントは『DOCTORS WITHOUT BORDERS(国境なき医師団)』(世界19カ国に支部を持つ国際医療ボランティア団体)。課題内容は、「この国境なき医師団への定期的なドネーター(寄付者)を増加させるプラン」の提案。事前に想定はしていた「公共系クライアント」におけるドネーション課題だった。
ブリーフィング後、質問タイムが与えられ、オーストラリアやドイツの参加者からクライアントに対する質問が。10分程度の質問が終わったところで、その日の残りは「企画日」ということで、特に拘束されることもなく各国チームとも解散となる。

■14:00 オリエンの読み込み

ブリーフィング後、早々にホテルへと戻り、まずは英語のオリエン資料を解読。ざっと目を通せば意味はわかるが、文章の裏に隠されたクライアントの本質的な意図を英語で理解することに悪戦苦闘。読み込んだ内容からクリエイティブブリーフ(オリエン資料のポイントをまとめたもの)を作成し、いよいよ企画へ。会場周辺にはエージェンシー関係の知り合いがぞろぞろといるため、作業に集中するにはホテルがオススメ。

■20:00 ひたすら企画

実施が求められないヤングカンヌにおいて最も重要となるのは、「戦略」と「コアアイデア」。「これだ!」とお互いが納得するまで企画を出しては捨て、出しては捨てをひたすら繰り返す。一応ペアでのルールとして、当日中(24時)までには信じられるアイデアを決めようということを決めていた。カンヌは21時過ぎまで外が明るいので、一見写真はまだ昼間にも見えるが、企画決定までのデッドラインは着々と過ぎていた。

■26:00 夜食タイム

夜中3時。日本から持参していったカップヌードルを食べる。事前のスケジュールを大幅に過ぎてこの時点でやっと企画を決定。ちなみに事前にホテルにはコンペのことを話し、食堂を一日自由に使わせてもらえることにしてもらった。(日本のような会議室はカンヌにはないため、広めの作業場の確保は必須)。一見わびしそうにも見えるご飯だが、カンヌ滞在中で一番美味しかった食事だったかもしれない。そして企画決定後、手書きレベルで企画書の構成を考え、明日のことも考慮し28時に軽く就寝。ほとんどの部門でも2日目は「作業日」となるため、数時間だとしても次の日のために「寝ること」は重要。

2日目(プレゼン資料作成日)

■8:30 会場集合

2日目は、朝8時半に昨日のブリーフィングとは異なるカンヌ会場内の部屋に集合。この写真の向こうの奥側にメディア代表向けのその作業ルームがある。場所的には会場の“屋根裏”的なところで窓もない一見寂しいスペース。実際に朝時間通りに集まっていたのは7割程度のチーム。国民性なのかお昼過ぎにのんびりと現れるチームも。。

■13:00 プレゼン資料作成

資料作成に与えられた時間は8:30~20:00。各国チームごとに1台のWindowsPCが与えられ、指定されたPowerPointを使ってひたすら作業に集中。注意すべきはPowerPointの言語も「英語」設定なので、事前に英語表記でのアイコン名称等に慣れておくことが大事。ペアに対してPCは1台なので、畑中が英文作成を、相方(陶国)が企画書作成という分担に。ちなみに事前の資料には記載されていなかったが、PC内にはフォトショップとイラストレーターが入っており、事務局に聞いたところそれも使用可能であるということがわかった。企画書10枚で12時間もあるので初めは余裕かと思っていたが、慣れない環境やプレッシャーなど様々な要因から作業は思っているようには進まない。

■22:00 プレゼン準備

20時ギリギリでなんとか企画書を提出完了。企画書データの持ち出しは禁止されていたが、その代わり出力を持ち帰ることは許された。明日のプレゼン順番は「26ヶ国中25番目(15:30会場集合)」。ちなみにプレゼン順はABC順で決められていた。25番目という必ずしもいい順番とは言えないが、明日の5分間のプレゼン&5分間の質疑応答に向けて、残された力を振り絞って英語原稿を作成する。作成した原稿をもとに、ペアで何度もプレゼン練習を行い、明日の本番に備える。

<3日目(プレゼン日)>

■15:30 プレゼンテーション

15:30にブリーフィングが行われた部屋に日本チームが集合。プレゼンはチームごとで他国チームのプレゼンは一切見られないが、部屋では前のチームである中国チームがプレゼンをしている模様だった。ヤングのプレゼンは朝の8時半から始まっていたので、入室したときにあくびをしている審査員たちもおり、正直寝むそうな状態。。(その意味でプレゼンテーションがある部門での順番は重要かもしれない)。
そして「Are you guys ready!?」という声のもと、カンヌライオンのメディア部門の審査員3名を前にプレゼンがスタート。しかしプレゼンがはじまると、審査員は戦略に深く頷いたり、アイデアに笑ってくれたりと非常に親身にプレゼンをきいてくれた印象。出来としては70点。覚えていた内容を発表することはなんとかうまくいったが、プレゼン後に審査員から「コンバージョンはどうなっているか?」、「日本でワークすると思う?それはなぜ?」など鋭い質問が相次ぎ、日本語でも答えるのが難しい内容であったため、それを英語で答えることに苦戦した。もちろんのことではあるが、ネイティブの人たちの前でプレゼンテーションをすることに慣れておくことを強くオススメする。自身としても英会話の先生の前では事前練習していたものの、厳しい目でプレゼンを見てくる“審査員のプレッシャー”はやはり本番ならではであった。

■16:30 ヤングライオンズコンペティション結果発表~そして惜敗

日本チームの次のチリのプレゼンが終わると、再び全チームが部屋に集められ、いよいよ結果発表。緊張する暇もなく、メディア審査員から3位、2位、1位の国が読み上げられた。3位はアルゼンチン、2位はアオーストラリア、そして1位はUK。残念ながら日本チームの名前が呼ばれることはなかった。プレゼンではまごついたものの、企画自体には自信があったため二人で若干の間、放心状態に。
それぞれのチームへの講評はなく、勝利チームについても企画内容までは語られることはなかった。ただ1位のUKについては、「インサイトと戦略が素晴らしかった。」との審査員からの説明があった。優勝チームであるUKを称えた後、全チームが解散となった。これにてヤングライオンズメディア部門のコンペティションの全てが終了した。

「ヤングライオンズ」とは一体何だったのか?

約3日間のコンペを戦って思うこと、それは「ヤングライオンズ」とは、結局のところカンヌフェスティバルの“ビジネスの一部”なのかもしれないということ。世界代表が集まる戦いではあるが、その実態は学生の簡易的なワークショップのようなもの。作業ルームは会場の隅っこの狭い部屋であったり、審査員と触れ合ったり、特別な講義や表彰が行われるわけでもない。
各国において予選を行うことで、“カンヌライオンズ”という祭典に若い存在が目を向け、それを目標にさせることで、将来のカンヌにエンゲージ(出品・参加)してくれるクリエーターたちを育成するためのものなのかもしれない。
ただそこで行われるクリエイティブコンペティションは、「アンダー28世界代表戦」には変わりない。そこに集まった参加者はまぎれもなく今後のクリエイティブ業界を担っていくトップクリエーターの卵たちだったと思う。そしてそこで勝利すれば「ヤング部門でのカンヌライオンを獲ったこと」になる。

ではヤングライオンズ本戦を経験して感じたこと、学んだこととは何なのか?残念ながら年齢的にも今年が“ラストヤングカンヌ”であるため、僭越ながらそのポイントを将来のヤングライオンズを目指す人々に残しておきたい。

事前練習は基本

まず日本にいる間に、ペアと共に本番を想定した「デモコンペ」を行うことは大前提だと思う。アイデアの出し方、そのアイデアを最終判断する基準設定、提出までのスケジューリング、ペアの長所・短所など実に様々なことが学べる。どんな過程であれ若手クリエーターの「日本代表」となるのだから、このレベルの準備は必ずしてほしい。

周囲の空気に呑まれない

特に欧米や南米からの代表はブリーフィング時からアグレッシブで場の雰囲気を持っていっていた。(これはあくまで自分たちだけの印象だが)そういった様子を見ていると、「英語ペラペラで積極的=強敵」という風に想像してしまいがち。世界の代表が集まっているからといって変に萎縮して周囲の空気の飲まれないことが大事。

審査員の気持ちになる

作品やプレゼンテーションをみる審査員たちは、カンヌ本戦の長くて辛い審査を終えたばかりの状態。つまりアイデア慣れをしていてしかも疲れている。ヤングライオンズはこの審査員の状況をよく理解しなければならない。実施が求められていないコンペだからこそ、フレッシュで未来への可能性を感じさせるアイデア、エグゼキューションが少なからずヤングライオンズには求められていると思う。

「本番環境」に慣れておく

ヤングライオンズの代表に決定すると、その部門の本番での使用環境がメールにて送付される。(サイバー部門ならバナー制作における使用可能ソフト、メディア部門なら企画書作成ソフト等)。まずはそのバージョンでのソフトに予め触れておくこと。また前述のように、現地では言語が「英語」設定となっているため、英語バージョンでのソフト使用にも慣れておくことをオススメする。(見慣れたアイコンやコマンドが英語になると意外と混乱するので)。

食事はあなどるなかれ

これも個人差はあるかもしれないが、カンヌの地においてはまともな日本食はなかなか食べられない。旅行気分であれば感じることはないが、コンペという缶詰め状態に追いやられると、ひとつひとつの食事もストレスになることがある。実際にコンペ中、サンドイッチばかりの生活にかなり参ったが、周囲の人からもらえたカップラーメンやインスタントみそ汁などが助けになった。実際にカンヌに向かう際には、自分の口に合った日本食を持参することをオススメする。

「作業場」を確保する

そもそもビーチリゾートであるカンヌには落ち着いて企画ができるような「会議室」などは存在しない。また日本のような受験勉強ができるような気軽なカフェもないため、ホテルのレストランや広間など、資料を広げて作業ができるような作業場を本番前に確保することが大事。

プレゼンで重要なのは「質問準備」

これはプレゼンテーションがあるヤングライオンズの部門によるが、代表に選ばれる人であれば英語プレゼンはまず問題ないかと思うが、重要なのはその後のフリースタイルの「質問」にある。審査員はプロ中のプロであるため、日頃のクライアントよりも鋭い(もしかすると意地悪な)質問を投げ掛けてくるので、プレゼン練習は何より質問への対応をしっかり準備する必要がある。

以上が、今後ヤングライオンズを目指す全ての方に残しておきたいことだ。
前述もしたが、これらはあくまで体験者としての個人的な感想であるため、これをどう受け取るかはそれぞれの自由。
ただ自分自身、実は今年で三度目のカンヌ参加であったが、本体のカンヌが「お祭り」であるとすると、ヤングカンヌライオンズはまさに「戦い」である。ヤングカンヌへの参加は事前の緊張やプレッシャーも含めて非常に“ストレスフルな期間”であると思う。それが「代表」という独特なものなのかもしれないが、普段の業務とはまた違ったタイプのプレッシャーを感じることになると思う。

最後に「ヤングライオンズコンペティション」とは、野球でいう「バッター」みたいなものだと思う。
まず、ヤングライオンズ本戦という「試合」でヒットを打つためには、事前準備という「練習」が必要だ。練習には、デモコンペや事前スケジューリング、英語の特訓など様々なことが含まれる。ただ必ずしも練習をしたからといって絶対に打てるわけではない。それは天才と言われるイチローでも4割を打てないことと同じだ。でも練習をしないと決して打てない。また練習と本番の空気はまた違う。だからこそ、代表決定から数ヵ月後にくる本番のために、事前準備による練習を重ねることで、試合での打率を高くすることが重要なのだと思う。

実は今年、デザイン部門とフィルム部門で初めて日本チームがブロンズに輝いた。それは本当に素晴らしいことだと思う。25カ国以上もの敵チームの中で3位に入ることは、言葉というハンデの壁があることを考えても快挙だ。
先に語った“実態”はどうであれ、ヤングライオンズで勝つことができれば、世界における若手クリエーターとして認められることになる。その意味で、ヤングライオンズもカンヌ同様に、それを目指す若者はいなくならないだろうし、おそらく今後もカンヌがあり続ける限りは行われるはずだ。そういう意味で「カンヌライオンズ」とは、アダルトもヤングも魅了し続ける存在であることは間違いないと思う。